Note 7 銃
銃は最高だ。嬉しいことに今の日本にはそれが溢れかえっている。
戦場で手に入れた国防軍のアサルトライフルは、亡命政府派国防軍が敗走し、皇道派国防軍が町から去るころにはほぼ原型を留めていなかった。
旧型ゆえにカスタムパーツは豊富だった。まずは携行しやすいように固定ストックをワイヤーストックに交換した。次にアッパーレールにドットサイトを載せた。次にハンドガードをより軽量な物に換えた。そうこうしてるうちに、気付けばレシーバー以外のほぼ全てが官給品の状態から変わっていた。大抵のパーツは戦闘後の戦場を漁れば手に入ったので、カスタマイズには困らなかった。
A.I.R.に見せびらかすと、「よくできている」と褒められた。
今まで以上に行動力が上がった。自分だけの銃を手に廃墟を歩くのは最高の気分だった。
アサルトライフルのおかげでもあるが、怖いものはなかった。亡命政府派国防軍は敗走していないし、皇道派国防軍も後始末どころか町の占領すらせずにどこかへ行ってしまった。今、この〈BATiS〉福島実験都市をうろついているのは、遅れてやってきたスカベンジャーやら放浪者ばかりだった。
餌を撒くとそいつらは簡単に集まってきた。まずは集めるだけ集めて遠くから様子を見た。大抵は争い始め、殺し合いに発展した。ある程度殺し合いが終わったら射殺した。
A.I.R.による射撃管制や戦闘サポートは適格だった。人の姿をしているのでときどき忘れそうになるが、戦闘時の機械的な言動はやはりAIのそれであった。
戦闘というよりは狩りだった。だがそんな日常に慣れてしまい、気を抜いていたのが悪かった。放棄された皇道派国防軍の野営地を漁っていたとき、出会い頭に男に撃たれた。男はショットガンを持っていた。
左腕を撃たれた。腕からは血が出ていた。アサルトライフルは落としていた。
咄嗟にホルスターの将校用拳銃を抜き、撃った。撃ちながら距離を詰め、男を殺した。次に泣きながらこちらを睨んできた女を殺した。とどめの一発は眉間に撃ち込み顔面を潰した。ある程度撃ったのでマガジンを交換した。まだ「人がいる」とA.I.R.が急かしたが、左腕を怪我しているので素早くはできなかった。
机の隅に隠れている相手に銃を向けた。相手は子供だった。
泣き声がした。小さな子供は赤ん坊を抱いていた。
いつもなら即座に指示を出すA.I.R.が今は固まっていた。だがA.I.R.が何か言う前にトリガーを引いた。何発か撃つと廃墟はいつも通り静かになった。
「銃声を聞きつけて人が集まってくる」とA.I.R.が言った。「傷の治療は実験棟に戻って処置をするように」とA.I.R.は続けた。
ショットガンと弾を拾い、実験棟に帰った
A.I.R.に方法を教えてもらいながら、弾の摘出、傷の処置をした。それなりに痛かったが、血は止まり弾も摘出できた。
傷口から出てきた弾を見て、「バードショットだ」とA.I.R.は言った。包帯を赤く染める血を見ながら、「バックショットやスラグでなくて運がよかった」とA.I.R.は続けた。
まだ夜ではなかったが、何をする気にもなれなかったのでベッドで横になった。
痛みなのか、眠れなかった。痛み止めの薬を飲んだが、胸糞悪い感覚は消えなかった。なるべく思い出さないようにしても、泣き声は頭から離れなかった。
子供はうるさい。だから嫌いだ。
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