辿り着いた場所
辿り着いた場所【前編】
数年後、トーラス国内のとある菓子職人の工房にて。
「ご無沙汰しております、トルテ姫。そちらの進捗はいかがでしょう? まだ完成とは言えませんが、こちらの開発は順調です。本日も最新の試作をお持ちしました」
トルテ姫とグラセ王子は毎日忙しくしていましたが、互いに訪問し合っては進捗報告や激励をする事もありました。
「グラセ王子、お久しぶりですね。いつもありがとうございます。今日は何のフレーバーを試食させてくださるのかしら」
トルテ姫は作業の手を止め、グラセ王子に微笑みかけます。
「……その前にひとつ確認したいのですが、貴女がブレヴィティを苦手になってしまったのは、シュークリーム味の試食がきっかけだったとおっしゃっていましたよね」
「そうですよ」
「本日お持ちいたしましたブレヴィティの試作もシュークリーム味のものです。トルテ姫のお口に合う保証はありませんが、ようやく自信を持てる仕上がりに持って行けたので、貴女にも召し上がっていただきたいと思いまして。咀嚼の際の違和感も最小限に抑えられたのではないかと思うのですが……やはりこのフレーバーをお召し上がりになるのは抵抗がおありでしょうか?」
「いいえ、そんな事はありませんよ。グラセ王子がそうおっしゃるのでしたら品質も間違いないでしょうし。いただいてみますね」
おずおずと切り出したグラセ王子でしたが、トルテ姫は気にせずブレヴィティを口に運びます。なかなか豪快な一口でした。
「……すごいですね、これは。直接クリームを入れているわけではないのに、生地だけでここまで再現しているなんて……。最初にいただいたのがこちらでしたら、わたくしもブレヴィティを苦手にならずに済んだかもしれません」
言葉とは裏腹に、トルテ姫は浮かない表情です。
「やはり本物には及びませんよね。ですが、お口に合わないというわけではないようで安心しました」
「ごめんなさい。持ってきてくださったブレヴィティがどう、というわけではなくて……」
「トルテ姫の修業は思うように進んでいないのでしょうか?」
「いいえ。修業の成果は日々感じています。沢山の方に様々な事を教わっていますし、とても充実していますし。みんなの足元にも及ばないけれど、数年前のわたくしに比べたら、格段にレベルアップしている自信もあります。……それでも、彼と同じ味のお菓子は一度も作れていません。少しも近付けないの。それどころか、遠ざかっている気がするときさえあります」
このところ気丈に振る舞っていたトルテ姫でしたが、ついに溜めていたものが噴き出してきてしまったようでした。
「
「…………トルテ姫、それは少し違います。
「わたくしのお菓子作りの師匠、というと……BKFP002の事ですね」
トルテ姫はしばらく会っていない懐かしい人の名を挙げました。
お菓子作りを教えていたトルテ姫が修業に出てから手の空いたBKFP002は、人づてにグラセ王子の話を聞きつけ、協力を申し出たのです。
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