姫様の初恋【中編・下】



「……でも、『叶いっこない』なんて理由で諦めるなんて、出来そうにないのだもの」


 そして、そのたびに柔らな心から血を流すのでしょう。処世術としての笑顔がこんな場面においても役立つ事すらも、本当は悔しく思っているかもしれません。


「…………いいじゃない。もうわたくしは、あなたと言葉を交わさずに眠る事など出来ないのだから。この気持ちが燃え尽きて、すっかり灰になってしまうまで……変わらずあなたを想い続けましょう」


 そう決意した姫様ですが、いつまでこの苦しい片想いが続くのかと思いを巡らせ、すでに挫けてしまいそうな自分に気付きます。

 

「みんなは『叶わない恋なんて時間の無駄』と言うでしょうけれど、片想いが両想いに劣るなんて事はないわ。少なくとも、わたくしは回り道だとも非効率的だとも思わない。朝を迎えるのがこんなに嬉しいなんて知らなかった。甘いお菓子の他にも心をときめかせてくれるものがあるなんて、考えてもみなかった。ヒトでないあなたが教えてくれた感情がわたくしを変えてくれたのは確かな事実よ。別に叶わなくたって……そんなの、大した事じゃ…………」


 己を奮い立たせるために発した言葉たちは、かえって姫様の奥底にあった本心を浮かび上がらせました。


 『叶わなくていい』とも『大した事ではない』とも、声に出す事が出来ません。


 叶えたいに決まっています。彼女はこれが最後の恋である可能性をも感じ取っていました。

 

 いま、それをなくしてしまったら、日常は途端に輝きを失うでしょう。彼の存在は、彼のいる日々は、いまや彼女の生きる希望にさえなっていたのです。

 

 虚勢だとわかっていても、『リクエストを伝えに行く事自体を拒否されてはいない』という事だけが現在の彼女の心の拠り所でした。望みは薄くても、完全に途絶えたわけではないのだ……と。

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