姫様の初恋

姫様の初恋【前編・上】



 それからというもの、彼女は少し変わったようでした。


「ごちそうさまでした!」


 わがままで気まぐれな性格は相も変わらずで、直前にメニューの変更を言い渡す事もありますが、以前は他の人に押し付けたり、少し食べて残したりしていた変更前のスイーツも残さず美味しくいただきます。


「どんな心境の変化があったんでしょうね」


「厨房に連れていかれてからだよな……」

 

「なにがあったか知りませんけど、いい変化だし理由なんてどうだっていいんじゃないです?」


「そうですね」


 彼女の変化に召使いたちも驚き、そして喜びました。





 細い月の照らす晩の、一日が終わろうかという時刻。


「……姫。ひとつお聞きしたい事が」


 お城の一室には、ひそひそ声で会話する彼と彼女の姿がありました。


「ええ。なんでしょう?」

 

「姫は近頃、明日の朝のお食事のリクエストをお伝えになるために、ここまで足を運んでくださいます」


「迷惑かしら?」


 姫様が初めて彼を部屋に招いてからというもの、彼女は就寝前に必ず彼の部屋を訪ねるようになっていました。


「いえ。それはもちろん構わないのですが、私宛にメッセージを送信してくだされば済むのではないかと思ったのです。最初にお話ししたときだって、そうやってお部屋の位置を教えてくださったでしょう? わざわざご足労いただく事はありません。非効率ですし、そのほうが姫のご負担も抑えられるのではないかと僭越ながら思ったのです」


 それまでは王族の身の回りの世話を受け持っている召使いのうち、手隙の者がBKFP001に姫様のリクエストを前日中に送信してくれていましたが、あの日以来、姫様が直々にBKFP001の部屋に出向き、翌日分のリクエストするのがお決まりになっていたのです。 

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