出会い【後編・下】
「ねぇ、あなたたちって性別のプログラミングはされているの?」
光沢のあるボディを眺めていて、姫様は疑問に思います。厨房にいた個体はすべて外見上の差異はないように見えました。
「いえ、特には。この国で生産されるアンドロイドのボディはすべてヒトの男体を参考に設計されていますが、その理由は『作業の際に胸部が邪魔になってはいけないから』だそうです」
「あら、ちゃんとした理由があったのね」
「はい。パワーはヒトの男性よりありますが」
その発言がジョークなのか事実を述べているだけなのかも彼女にはわかりません。どれだけ彼を見つめても表情の変化はなく、機械特有の少し癖のある抑揚から推測する事も困難です。
「それはとても頼もしくていいわ」
「……明確な回答をお求めのようですので、補足を。どちらに近いかで論じるのであれば、男性に近い意識を持った存在といえるのではないかと思います。姿形が内面に及ぼす影響は、存外に大きいそうですし」
「ごめんなさいね、お菓子と関係のない事ばかり聞いて。わたくしは自分の国の主要産業についても満足に知らないみたい」
「構いませんよ」
「でも、あまり長く引き止めてしまっても迷惑ね。ヒトを参考に作られているんだから、あなたたちにも休息は必要だわ。今日はこのあたりにしましょうか。よかったら、またこんな風にお時間を作って、わたくしとお喋りしてくださる?」
「もちろんです。……あ、そういえば。明日の朝食はなにになさいますか? 本日はまだリクエストを受け取っていなかったはずですが」
アンドロイドの側から自発的に姫様にものを尋ねてきたのは、それが初めての事でした。彼は業務の一環としか考えていませんでしたが、彼女にとっては衝撃の大事件です。
「え、ええと……そうね。では、クリームブリュレを」
彼女は返事をしたもののどこか上の空でした。なぜなら、その問いかけで気付いたからです。『毎日、彼に会える口実が出来る』という事に。
しかし、恋に疎い彼女です。『自分が彼に会いたがっている』という気持ちに気付くにはまだ至らないようでした。
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