出会い【後編・中】
「そう……。だから、外国の
「はい、そうです。製法や流行……日夜アップデートしていく世界に置いていかれないためには、私自身の研鑽は欠かせません。ですから、姫。私のお菓子に足りない部分があれば、なんなりとお申し付けください」
「……あなたはとても立派ね」
彼がただ毎日の仕事をこなすのではなく、一人に出すお菓子のクオリティを高めるためだけに日夜勉学に励んでいると知り、姫様は人々が新しい文化を受け入れても頑なに自らの食事スタイルを手放さそうとしない己を顧みました。
「お褒めいただき、光栄です。ですが、私は今後のために率直なご意見をいただきたいのです」
「あなたは向上心の塊ね。わたくしもその熱意に応えたいけど……。いまのところ、あなたのお菓子は味も見た目もパーフェクト。文句のつけようがない。求めていた答えじゃないかもしれないけれど、わたくしはあなたの作るお菓子が毎回楽しみです。それもきっと、あなたがよりよいお菓子を作ろうと勉強してくれているおかげなんでしょうね」
姫様は変化に適応できなかったわけではなく、変化しないという選択をしただけでしたが、BKFP001の話を聞いたばかりの彼女がそんなふうに思えるはずはありませんでした。
「身に余るお言葉です、姫。これからも頑張れそうです」
まさしく『健気な下っ端』とでもいうべき人物像を無理矢理トレースしたような返しが空々しく思えて、姫様は虚しくなりました。
所詮、アンドロイドはアンドロイド。ある面では人間以上でも、同一存在にはなりえないのだと。
「……お菓子とは関係ない事だけれど、わたくしの事を『姫』と呼ぶ人も新鮮でいいわ」
人為的にプログラミングされた言動にいちいち
「失礼でしたら、変えますが」
「いいえ、そのままでお願い。あなたがラフなんじゃなくて、みんなが堅苦しすぎるのよ」
「かしこまりました」
そのあとも二人は他愛もない話を続けました。
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