出会い【中編】
「そちらの奥のアンドロイドが、姫様のお食事をいつも作ってくれている個体ですよ」
仕事中のアンドロイドの間を縫って、ばあやと姫様は厨房の一角に辿り着きました。
「へぇ、そうなのね。こんにちは。ねぇ、そちらの方。あなた、
姫様はいましがた紹介されたアンドロイドに話しかけます。
「もちろん出来ますよ。あなた様は世間知らずでいらっしゃいますからね、ためになるお話が聞けるはずですよ。色々とご質問なさってはいかがです?」
「ええ、そうね。そうするわ。でもね、ばあや。いちいち突っかかってくるなら、この方とわたくしをふたりにしてちょうだい。それにわたくし、ばあやに聞いたわけじゃないわ。この方に聞いたのよ」
ばあやの物言いにかちんときて、姫様は眉をつり上げます。
「そうでしたか。それは申し訳ございませんでした。ですが、姫様。ここにいては他のアンドロイドの仕事の邪魔ですよ。お話なら別の場所でお願いしますね」
「もちろんそのつもりだったけど、連れてきたのはばあやじゃない」
「……おわかりになりませんか? 仕事の風景を見てもらうためですよ。あなた様の食事を作ってくれるその個体は、いま夕食の準備をしているでしょう。何時間も先なのに。あなた様の分を作ればいいだけなのに」
「あ…………」
姫様はそこまで考えの回っていなかった自身を恥じました。
「料理もそうですが、お菓子作りというのはとても手間暇のかかるものなんですよ。私はそれを少しでもご理解いただきたかったんです。でも、担当でない者が言っても説得力がないでしょう。あとの事は、その個体にお聞きになってくださいね」
「……そうよね。ごめんなさい。厨房で働くみなさん、お仕事中に失礼いたしました。それから、わたくしの食事を作ってくださっているそこのあなた?」
いま一度、姫様は彼女の食事担当を務めるアンドロイドに話しかけます。
「はい」
作業の手を止め、彼女のほうを向いたアンドロイドは、厨房で働く他のアンドロイドとまったく同じ顔をしていました。
「今日の分のお仕事が終わったら、わたくしのお部屋にいらしてくださいな。あなたとお話がしてみたいの」
「かしこまりました」
アンドロイドはすんなり了承します。
「ありがとう。お部屋の位置はあとで送信しておきます。では、わたくしはこれで」
このとき姫様は、そのアンドロイドと会話するのはそれが最初で最後になるだろうと思っていました。
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