第4話 裏『協力者』
村で1番大きな屋敷に向かった。
表札には村長代理と書かれていた。
ドアベルを叩くと、中から黄色の首輪をした女が出てきた。
「はい。」
「ジュプはいるか?」
「どちらさまですか。ここは村長代理のジュプ様のご邸宅です。」
きっと俺のことを不審者だと思っているし、それを隠そうともしない。
「冒険者のロゲンだ。」
「……。」
それでも警戒を解かない女に少しだけ苛立ちを覚えた。
「ロゲンが来たって言えばわかると思うぞ。」
女は迷ったようだが一礼して中に戻った。
しばらくすると、眼鏡をかけたロングヘアの男を連れてきた。
「ああ。ロゲンさん。ピュッテ、お茶淹れて。」
「はい。」
女がいなくなったあと、
「短期奴隷買ったのか?」
短期奴隷は、借金などの理由で数ヶ月間誰かに自分の身売りすることだ。
鉱山で危険な仕事をしたり、体を売ったりと持ち主のいうことは何でも聞く。
労働者や冒険者と違うのは、期間内は魔術で絶対的に縛られている。
少ない日数の割に稼げると評判ではあるが、同時に重労働ではある。
「数か月は仕事が忙しくてね。他にもモンスターの調査にいってもらってる短期奴隷もいるよ。」
部屋に案内された。
「私に会いたかったのか?」
ゴツゴツした手に女みたいな長い髪にはなれない。
「……いや、ちょっと聞きたいことがあってな。」
「珍しいね。モンスターのこと?」
俺が頷くと、
「ああ。この村の外れに洞窟があるだろう。最深部の捕食するモンスターは知ってるか?」
「うん。わかるわ。有名な種類だから。」
彼は目を輝かせて
「人を食べるモンスターの中では、もっとも賢い分類と言える。世界中で研究されてるしね。」
ドアをノックする音が聞こえた。
「入って。」
ピュッテが紅茶を目の前に置いた。
「モンスターに捕食された人の話を聞きたい。」
「うーん。それなら、ピュッテが知ってるかな。」
「そうなのか?」
「捕食されたことあるし、専門で研究をしているからね。」
ジュプは、俺の目の前にピュッテを座るように言った。
「彼に説明してあげて。」
「学者たちに【幻覚の捕食花】と呼ばれているものです。文字通り、幻覚を見せながら相手を捕食します。」
「めったに討伐対象にはならないけどな。」
「はい。彼らは、放っておいても年に数人しか食事を必要としません。だから危険だとは言われないんです。他にも生殖用に人間を囲います。」
「囲う?」
「性別や年齢問わず子孫を残すために乗り込むんです。」
「捕食と何が違うんだ?」
「捕食は文字通り養分にされますが、生殖用は子どもをモンスターと作ります。見た目が人間そっくりらしいですよーーまあ、私はその前に助けられましたが。」
「……。」
「彼らの中で何かしらの審査をして、捕食か養分に分けるみたいですーーどんな基準かよくわかりませんが。」
「ちなみに、楽園ってのはどんなものなんだ?」
「私の場合は、穏やかな麦畑にいました。」
手を広げて、伸ばした。
「実家が貧しかった上に、飢饉も何回か経験しているのでその、胸が高鳴る用な光景でした。」
「自分の理想の世界が広がってるってことか。」
「そこに女の人が居て、ずっと彼女とアフタヌーンティーをしてました。」
恍惚とした表情。
「来る日も来る日も、とても楽しい日々。」
「仲間が助けてくれるまでずっといて……。」
ピュッテは目線を落とし、手で顔を覆った。
「最後に麦畑は燃えて、私は助かったんです。あの女の人が顔から灰になって………。私が殺した……。」
ジュプは、ピュッテに駆け寄った。
「ごめんね、もう話さなくていい。引き止めて悪かったわ。」
ピュッテはフラフラしながら部屋から出ていった。
「あれ、大丈夫なのか?」
「普通なら不味いね。だから、短期奴隷なんだよ。」
「どういうことだよ。」
「短期奴隷なら、自死や自傷はできないよ。何もなくても、フラッシュバックするときがあるから。」
「……。」
「それに、行方不明になっても場所はわかるから。本人に頼まれた。精神状態が不安だからって。」
「そう、か。」
短期奴隷って別に借金のためにやるわけじゃないんだな。
「……捕食されて死ぬのは苦痛はないんだろうか?」
「おそらくないと思う、遺体を見たけど抵抗した跡がない。ーーピュッテの様子を見ていると、『楽園』から助けられるほうが苦痛だよ。」
「……。」
「まあ、ピュッテの場合は違うけどずっと取り込まれると段々同化していくしね。」
リガドのいう『幸せに死ぬ』は叶うだろう。
「討伐依頼なんて誰か出していた?報告来てないけど?」
「個人で受けたから、村長代理でもあるお前にも来ないよ。」
「ああ、そう?まだまだ生態について研究しきれてないから、できたら討伐はやめてほしいんだけど。」
「いや、討伐じゃない。」
おそらくリガドの依頼のことをいえば、この時点で処罰されかねない。
「他の人から頼まれてな。最深部の宝の噂について調べてほしんだと。」
「へえ。」
「最深部で一番厄介な魔物ことを知っておかないとな。一人で行くんだし。」
「変わった噂もあるもんだね、神殿のせいかな……?」
「神殿?」
「知らないの?どんなルーツかわからないけど、古代からあるみたいだよ。」
「ほう。」
「まだ、調査も終わってないからね。いいんじゃない?探索。何か面白いもん見つけたら持って帰ってよ。」
「ああ、そうだな。高く買い取ってもらおう。」
ジュプを納得させられたみたいだ。
「じゃ、俺帰るわ。」
「待って!」
俺が振り返ると、耳に囁いてきた。
「面白そうなことしようとしてるでしょ?」
「あ?」
「帰ってきたら教えてね。」
「……バレてるのか。」
ヒヤっとした。
「内容は知らないよ。でもーー気をつけて。」
「ん?」
「あの【幻覚の捕食花】は近づくだけでも危険だよ、離れれなくなる。」
「せいぜい気をつけるさ。」
俺は屋敷を後にした。
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