第5話 裏『準備』

朝早く昨日の喫茶店で待ち合わせをしていた。

「遅いな。」

すでに約束の時間は過ぎた。

俺としてはこの前金もらってトンズラでもいいが、そうも行かないだろう。

「ごめんなさい、遅くなったわ。」

昨日と同じシャツだったが、なぜか水がかけられており、汚れていた。

「おいおい、大丈夫か?」

「ええ。どうせこれから死ぬからか関係ないでしょ?」

「そうもいかないだろ、行くぞ。」

俺は洞窟とは逆方向に歩いた。

「ちょっと、どこ連れて行く気?」

「風呂屋。この時間でもやってるところあるから。」

「お金ないわよ。」 

「前金から出す。」

リガドは渋ったが、俺の強引さにしぶしぶついてきてくれた。

「わざわざしなくてもいいのに。2、3日入らなくても平気よ。」

「冒険者ですら、水浴びは毎日するぞ……。」

「汚れても風呂に入れないほど忙しい日だってあるわよ。」

「とにかくモンスターっていうのは体臭にも敏感なんだよ。お前のためじゃない、護衛役の俺のためだ。」

風呂屋は早朝のせいか人がいない。

暇そうにしている受付嬢が俺たちに気がつくと手招きをしてきた。

「はいはーい、今なら誰もいないし貸し切り状態ですよ。」

俺はいくらか金貨を握らせる。

「この女に冒険者用の服を用意できるか?」

「もちろんですよー!あ、可愛いやつもありますけど……どんなのがいいです?」

「……この女に選ばせてくれ。足りないなら追加で払う。」

「はいはーい!お任せあれ!」

ニコニコしながら受付嬢に手を引かれてリガドは奥に行った。

「なーんかご機嫌な女だな。」

しばらく立って待っていると、受付嬢が戻って来た。

「お客さんは入らないんですか?」

「人に肌を見せたくないタチでね。」

俺の表情から訳ありだと思ったのか、

「この時間帯めったに人来ませんよ。それに、うちの風呂は湯気がすごい上に照明が暗いのでよほど近くないと見えないですよ。」

「そうか、ならせっかくだし入るか。」 

「はーい。ごゆっくりー!」

俺は男湯の脱衣所に行き、誰もいないことを確認して服を脱ぐ。

「はあ……。」

腕から背中にかけて黒い線が複雑に絡み合っている。

生まれつきの傷だが、呪いみたいで人に見られるとトラブルが置きかねない。

「……やっぱり様子が変だよな、リガド。」

オドオドしたような表情をするわけでもないが、全て諦めているような顔だ。

まあ、自殺願望がある人間なんてこんなもんか?

湯に足をつける。

「風呂も悪くないな。」

俺はそんなことを思いながら、小一時間を過ごした。











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