第6話 裏『出発』
「はあ〜。いいお湯だったな。」
風呂屋なんて数年振りだった。
やはり、川や滝や野湯とは全然違う。
設備も雰囲気も違う。
「お客さん、お連れの方のご用意できましたよ。」
緑色のローブに白のチュニック、心なしか多少若返ったようにも見える。
「悪くないな、これなら最深部まで行ける。」
「ここまでしてくれなくてもいいのに……。」
「いいだろ、報酬なんてどう使おうが。」
「変わり者ね。」
俺は受付嬢に向き直し、礼を言った。
「悪いな、仕事以外のこと頼んじまって。」
受付嬢は満面の笑みを浮かべる。
「チップ弾んでもらえたんで大丈夫ですー!いってらっしゃーい。」
受付嬢、正直な娘だった。
俺たちが出発するのをのを彼女はいつまでも見送ってくれた。
「どんなプランで最深部に行くの?」
「今日は早めに入口まで行ってキャンプするつもりだ。明日1日でリガドを最深部に連れて行ってとんぼ帰りするさ。」
リガドが戦えない以上、洞窟内の野営は危険すぎる。
最悪寝ている間にモンスターに襲撃される可能性も高い。
俺が魔術が使えたらよかったが、上位数パーセントのしか持たない能力なんてあるわけがない。
「じゃあ今日は早めに寝ないとね。」
「ああ。」
市場は用意ができた店もあるようで、竈の火が煙を上げていた。
パイやシチューの匂いがする。
「朝ごはんどうするの?」
「ここら辺でもいいが……。食べたい物とかあるか?」
「じゃあ、ちゃんとした店で食べてみたい。」
「わかった。」
俺たちは適当な飲食店に入った。
「ご注文は?」
「ホットケーキ。シロップとクリーム多めで。」
「このヌードル、激辛で。」
「朝から辛くない?」
「そっちこそ、甘すぎないか?」
店員は、早々に料理を持ってきてくれた。
「……ん、おいしい。」
「ここにしてよかったな。」
「甘くて」
「辛くて」
「「最高!」」
リガドは嬉しそう食べているように見えた。
「落ち着いて食べるご飯って美味しいわね。」
俺たちしかいない店内で、リガドが手を動かす音だけが聞こえる。
とっくに食べ終わった自分の皿を見るくらいしかやることがなくて退屈だった。
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