第3話 裏『後悔と覚悟』

「はあ……。」

リガドと別れたあと、滞在している宿屋に立ち寄った。 

荷物を取ってまた出掛けようとすると、宿屋の女将が声をかけてきた。

「今夜は夕飯を食べるのかい?」 

「ああ、そのつもりだが。」 

「じゃあ悪いけど、おつかいお願いしてもいいかい?」

「暇だから構わないが。」

しわしわの手から、買い物メモを受け取った。

小さい宿屋のせいか、雑用を頼まれることも多かった。

宿屋というよりは親戚の家というべきかもしれない。

「いつも悪いね。」

「格安で泊めてもらってるから、気にすんな。」

俺は外に出て市場に繰り出す。

馴染みの青物屋に行こうとすると、リカドがいた。

反射的に物陰に隠れて様子を見ていた。 

深い意味がないが、気まずいだけだ。

両肩に荷物を抱えてお金を払う。

そのまますごすご歩いていった。

「あら、ロゲンさん。宿屋のおばさんのおつかい?」

女性が声をかける。

「ああ、さっきの人は?」

「ミゲルさんところお姉さんよ。お母さんとお父さんの介護しているからめったに来ないのよ。」

「そうか……。」 

リガドの死にたい理由はこれなんだろうか。

両親の介護を引き受けているなら毎日忙しいく、辛いこともあるだろう。

「このメモにある野菜をもらってもいいか。」

「ええ。どうぞ。」

慣れた手付きで、袋に野菜を詰めた。

代金を渡す。

「あと、これおまけ。」

手にお菓子の入った小箱が置かれる。

「おいおいガキかよ。」

「おつかいする坊やにピッタリでしょ?」

「こんな大きな坊やがいてたまるかよ。」

買い物が終わったあと、市役所に立ち寄った

役所と言ってもカウンターとテーブルが数個おいてあるだけの掘っ立て小屋だった。

カウンターによると、男性がぶっきら棒に言い放つ。

「ふああ、ロゲン。配達か?冒険者は仕事の掛け持ちが忙しいな。」

「今日は手紙届けに来たわけじゃないさ。」

明らかにダルそうにしている。暇なんだから、ちゃんと仕事をしてほしいものだ。

「……この村の冒険者の規則、見せてもらっていいか。」

「はいはい、ちょっと待ってな。」

男性は奥に行くと、すぐに分厚いファイルを持って帰ってきた。

「どうぞ。そこ座って見な。」

俺は今にも壊れそうな椅子に座り、パラパラとページをめくる。

「あった。」 

目的のページには、

『依頼主の身体的・精神的に危害を加えた場合、禁錮刑または死刑に処す。』

『正当防衛を除く人を殺害・傷害をした場合、禁錮刑に処す。』

『人に害をもたらす魔物を研究目的以外で討伐しない場合、罰金刑に処す。』

とある。

リガドの依頼は、端的に言えば魔物に捕食されること。

それって、この3つに当てはまるんじゃないか?

「……。」

「目的のものはあったか?」

男はあくびをしていた。

「ああ。あったよ。」

「冒険者が規則を確認するなんて珍しい。危ない橋でも渡るのか?」

「まあそんなところだ。」

「やめとけやめとけ、宿屋のおばちゃん泣くぞ。」

「おいおい、俺の母親じゃねーよ。」

この男の言う通り、おそらくこの依頼を受けたことがバレれば犯罪になる。

この村にはいられなくなるだろう。

「覚悟、しないとな。」

カウンターの男性は気がつくと寝ていた。

俺はそっとファイルを置くと、役所を後にした。






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