第8話 第8章

 梨乃は意識が薄れていくのを感じた。今までに梨乃は手術を受けたことがなかったので、全身麻酔がどんなものか分からなかったが、きっと、まったく意識が消えて行くモノなのだろうと想像していた。

 しかし、今回の睡魔に関しては、意識は薄れていくが、まったく消えてしまうという感覚はない。手足に痺れも感じるし、

――このまま眠ってしまうんだわ――

 という意識もある。

――気が付けば寝ていた――

 ということもたまにある。

 それは眠りに就くまでは最初から意識を失っていたのだろう。気が付けば、自分の寝息で目が覚めたのだ。イビキを掻いていたというほど大きなものではないのに、ハッと気が付くと、寝息を感じたのだ。

 最初、襲ってきた睡魔に、まったく気付かなかった。相当疲れていたのに、意識だけはしっかりしていることもある。それは、徹夜で仕事をした時、ハイな状態になることがあるが、神経が過敏になってしまっていて、まったく眠れない感覚の時である、そんな時は睡魔を感じることもなく、

――気が付けば寝ていた――

 という感覚に陥っているのだ。

 そのまま眠ってしまえば、きっと目覚めは悪いものではないはずだ。目が覚めて時々頭痛に襲われることがあるが、そんな時は、眠りが中途半端な時である。中途半端な眠りになってしまうと、目覚めは酷いもので、頭痛に吐き気が混じってしまうと、しばらくはベッドから起きれない時もあるくらいだ。

 時間的には、四時間前後の睡眠が一番きついかも知れない。短い睡眠であれば、却って楽なもので、次に睡魔が襲って来れば、その時に素直に反応すればいいと思えるからである。

 きっと四時間よりも短いと、夢を見るだけの時間がないからなのかも知れない。

――そう思うと、夢を見るのもエネルギーが必要だということなのかも知れないわね――

 と感じた。

 そのエネルギーを蓄えるのが、四時間以上という睡眠時間なのかも知れない。

 睡眠は、起きている時間に蓄積した疲れを癒すだけのものではなく、これから見る夢のために、エネルギーを溜めるために必要な時間なのだ。

 睡眠が大切なのだとすれば、夢も同様に大切である。それがいい夢であっても悪い夢であっても、その人に必要なものであるかは、潜在意識だけが知っているように思えてならなかった。

 梨乃が今回感じた睡魔に襲われた時に意識があるというのは、あまりないことではあるが、まったくないことではなかった。時々眠りに落ちていく自分を感じることがあるが、普段なら、

――中途半端な睡眠だから、意識があるんだわ――

 と思うのだが、その時は、

――何かの力が働いているからなのかも知れない――

 と思った。

 何かの力とは、すぐには思いつかなかったが、逆に睡魔に襲われている間に、これだけのことを考える余裕があるということは、自分に何かを考えさせようとしている力が存在し、その力が働いているのではないかと思った。今考えていることが、その力の思っていることなのかどうか分からないが、梨乃にとっては、そう思うしかなかった。

――それは今から見ようとしている夢の力なのかも知れないわ――

 と感じていた。

――夢に力があるのではないか――

 という思いは今までに何度か感じたことがあった。

 夢に力があるのか、見た夢を思い出すことで力が生まれるのか、どちらにしても、

――夢は自分を介して力を発揮しているんだわ――

 と感じたのだ。

 それが予知夢のようなものなのかはハッキリとは分からないが、

――先のことを予見する――

 という意味では、占いと似たところがある。

 似たところというのは、どんなに近くにあったとしても、必ず平行線を描くように重なることはないという感覚であった。

 梨乃にとって今回の睡魔は、

――夢を見ているという夢を見ていた――

 という感覚に似ている。

 文字にするとまったく意味が分からない禅問答のようだが、抑揚をつけると分かることなのかも知れない。


 以前、ブラックユーモアのショートストーリーを読んだことがあった、内容の詳細までは覚えていないが、その中で覚えているのは、不眠症の男がいて、いつも、

「眠れない。眠れない」

 と言っているのだ。

 病院に行って先生に診てもらっても、

「別に異常はありませんけどね」

 と言って、まったく要領を得ない。

 主人公は当然いくつもの病院を転々として調べてもらうが、結果は皆同じである。

 精密検査も受けた.CTスキャンもしてもらった。何をしても、異常はないのだ。

「精神的なものではないですか? 神経内科を紹介しますので、行ってみてください」

 と言われ、神経内科を訪れた。

 そこでは、身体を見るのではなく、実際に睡眠効果を与えて、どんな反応になるかということを研究するしかない。医者は患者に詳しい治療方法を説明し、納得ずくで研究に入ったが、

「なんだ、そういうことだったんですね」

 と、主人公はホッとした様子になって、大笑いするほどだったが、実際に研究を行った医者は、苦笑いするだけだった。

 患者が帰ってから、医者は独り言ちた。

「本当にこれでよかったのだろうか?」

 主人公は、家に帰って、ベッドに入る。そしていつものように眠りに就こうとする。

 今度は、

「眠れない」

 ということはなかった。彼は、そのまま眠りに就けたのだ。

「なんだ、結局俺は、眠れないという夢を見ていただけなんだ。心配して、バカみたいだ」

 と思いながら、眠りに就いたのだ。

 ただ、その時にどうして医者が彼のことを手放しで喜べなかったか? それは医者にしか分からなかった。

 彼に分かることはありえないからだ。そして、彼以外の他の誰も同じである。

「これはわしだけが、永遠に秘密を持ったまま、生きていくしかないんだな」

 と、溜息をついている。

 主人公はその日、ぐっすりと眠りに就いた。だが、彼がそのまま目を覚ますことはなかった……。


 梨乃は、そんなストーリーを思い出しながら、

――笑えない小説――

 を頭に描いていた。

 小説を思い出すと、夢に入り込むまでに、

――何も考えてはいけない領域――

 が、存在しているように思えた。

 主人公は、

――開けてはいけない、パンドラの匣を開けてしまったに違いない――

 自分もこのまま睡魔に襲われていく中で、

――本当なら何も考えてはいけない領域に入り込んで、このまま目が覚めないのではないだろうか?

 と感じた。

 いくら意識があるとはいえ、そんな小説をすぐに思い出すのだから、自分の中で睡眠に落ちる時にいつも意識してしまっていたことを感じさせられた。

 小説の場面を思い浮かべると、

――このまま落ち込んでしまう夢を、果たして見ることができるのだろうか?

 と感じた。

 それは、このまま目が覚めないのではないかということを思わせた。要するに、このまま死んでしまうという意識である。

――死ぬなんて嫌だわ――

 死に対して、今までに何度か考えたことがあった。一体死ぬことの何が怖いのかということである。

 痛かったり、苦しかったりするのが嫌なのか、それとも、この世に未練があって、

――まだまだ死にたくない――

 という思いが一番強いのか、梨乃は、時々考えるようになった。

 一番そのことを考えていたのは高校時代。人生の最初だと思える分岐点を通り越してすぐのことである。

 中学までにも感じなかったというわけではないだろうが、深く考えるようになったのは、高校になってからだった。

 中学というと、梨乃にとって、遠い過去である。

 覚えていることは断片的なことばかり、もちろん、その断片的なことは、重要なことばかりである。

 今の自分にどれだけの影響を及ぼしているのか分からないが、梨乃にとって中学時代と高校生以降とでは、明らかに溝があったと感じさせるほど、中学時代までの思い出は断片的だ。

 高校時代も断片的ではあるが、意識の中の距離が違うのだ。高校時代は断片的な思い出であっても、そこから幅を広げて思い出すことができる。それだけ記憶は浅いところに封印されているからだった。

 中学時代の夢を今でも見ることがある。それはいつも同じ夢だった。きっとそれが自分にとって一番意識が強いことなのだろう。他にもインパクトの強いことであったとしても、しょせんは自分に直接関係のあることでなければ、夢に見るほどの、

――一番大きな意識――

 というわけではないのだろう。

 それは中学時代、本当に最後の頃のことである。

 高校入試の当日、体調を壊したことがあった。元々精神的に弱いところがあると思っていた梨乃は、それまでに一生懸命に勉強も重ね、学校の先生からも、

「志望校への合格は、ほぼ大丈夫だと思う」

 という太鼓判を押されていた。

 両親もそれを聞いて、

「よかったわね、一生懸命に勉強した甲斐があったじゃない」

 と言ってくれた。しかも、

「だから、緊張しないで本番は頑張ればいい」

 とも言ってくれていた。

 ここまで言ってくれているのだから、精神的にはかなり楽なはずなのに、却って梨乃は萎縮してしまった。先生の太鼓判が、結構プレッシャーとして襲い掛かってきていたのだった。

 プレッシャーを感じ始めると、

――私ってダメよね。まわりが皆大丈夫だと期待してくれているのに、肝心の本人だけが萎縮してしまっているなんて――

 そんなことをまわりに言えるはずもない。余計に一人で硬くなってしまう。日に日にプレッシャーが高まってくる。なぜなら、本番日までどんどん縮まっているからだ。

 それは時間だけという意味ではない。まわりの余裕という空間が時間とともに狭まっている感覚である。

 実際の受験の日、案の定、体調を崩した。

 朝から頭痛はするし、吐き気もある。まずお腹を壊した。トイレに何度も夜中駆け込んで、肝心の睡眠時間が削られてしまった。

――何て長い夜なのかしら?

 さっさと朝になって、ダメでもいいから、早く試験が終わってほしいと思ったくらいだった。

 終わってしまってからの後のことなど考えられない。とにかくこの状況を逃れたかった。

 それが中学時代の記憶だったのだ。

 だが、実際に見た夢は違っていた。シチュエーションは同じなのだが、感覚が違うのだ。

 試験を受けている最中、それまで早く終わってほしいと思ったことを後悔した。

 今まであれだけ暖かく見てくれていたまわりが、試験に失敗した途端、手の平を返したように、相手にしてくれなくなる。

 誰も何も言わなくなり、目線は完全に見下しているのだ。

「あれだけ応援してやったのに、何よ、この無様な結果は」

 耳鳴りとともに聞こえてくる声に、

「ああ、ごめんなさい。私の力が足りなかったのよ」

「違うわよ。あなたの成績なら絶対大丈夫って先生も言ったでしょう? それなのに、試験に不合格だなんて、お母さん信じられないわ」

「そんな、お母さん……」

「あなたは本当に娘の梨乃なの?」

「えっ……」

「娘の梨乃なら絶対に合格するはずよ。それが不合格だなんて、そんなバカなことはないわよ。娘の梨乃をどこにやったの?」

「えっ? そんなこと言われても、人間なんだから、失敗だってするでしょう? 試験に不合格だったのは私が悪いんだけど、そんな絶対合格なんて決めつけるような言い方はやめて」

「あなた、娘が人間だっていうの?」

「ち、違うの?」

「違うわよ。娘は、私が作ったサイボーグよ。絶対以外の何物でもないのよ」

 ここまでくれば、もう何が何だか分からない。普段であれば、

――これは夢なんだわ――

 と感じるかも知れないことだが、相手は母親である。頭が混乱してしまい、夢と現実の世界に嵌りこんで抜けられなくなっているのだろう。

――どうして、こんなことに……

 と感じていると、夢から覚めている。

 この時は普段と同じような、

――夢から覚める感覚――

 というものがまったくない。気が付けば目が覚めているのだが、完全に目が覚めているにも関わらず、意識が夢と現実を彷徨っている。

 目が覚めても、その日一日は母親の顔を見るに忍びない。本当に体調が悪くなってきているようだった。

 実際の高校受験は、何とか乗り切り、志望校に入学できた。

 しかし、高校受験の時の苦しさが頭に残っていて、高校ではどうしても、自分の実力を発揮できる気がしなかった。高校時代が暗く寂しい時代だったと思うのはそのせいで、入学するまでの苦労が報われることはまったくなかったのである。

 その時の夢と、

「笑えない話」

 である小説とを思い浮かべると、夢を見るのが怖いことがあった。

 正夢を見ることができるようになったことも、恐怖を深める理由でもあった。

――夢を見ることは、「死」や「暗闇」を意識させる――

 という感覚である。

 暗闇に関しては、母親が夢に出てきた時に感じる、自分と母親との距離の深さの中に大きな溝があり、そこは谷底になっていて、広がっているのが、

――限りなく底のない暗闇――

 なのだという感覚があるからだった。

――死にたくない――

 という感覚は、中学時代までは、

――痛いことや苦しいことが怖い――

 という思いが強かったのに比べ、高校時代から後は、

――今の暮らしがなくなってしまうこと、これから訪れるはずの楽しいことがなくなるのが怖い――

 という思いが強くなった。

 高校時代の暗いイメージを考えれば、これから起こる楽しいことがなくなるのが嫌だったのだろう。

 成長期である高校時代は、やはりまだこれから起こる未知の世界に対しては、不安よりも期待の方が大きかった。

――今はどうだろうか?

 今は、どちらかというと、これから起こることへの期待よりも、不安の方が大きい。まだまだ年齢的にはこれからなのだろうが、どこか釈然としない思いもあるからだ。

 梨乃が中学までと高校からとの間に分岐があると感じたのは、死に対してのイメージの違いがあるからだろう。

 そして今を

――第三世代だ――

 と思うのも、将来に対して感じる期待と不安の割合によって感じているのではないだろうか。

 第二世代と第三世代との厳密な分岐がいつだったのかは、ハッキリとしない。第一世代と第二世代の間にある中学と高校の分岐のようにハッキリしていないのだ。

――それだけ、今が毎日を漠然として過ごしているからなのかしら?

 と梨乃は思った。

 今回占いについて考えるようになったのも、ある意味分岐かも知れない。今まで分岐だと思っていた第二世代と第三世代の違いのイメージが自分の勘違いで今だったのかも知れないと思うのも、まんざら間違っていないようにも思えてきた。

 そして再会した蔵人が自分にどのような影響を与えているというのだろう。確かにここ数日で、梨乃を取り巻く環境はどんどん変化しているように思う。今の梨乃はこの変化に確かについていっていない。この変化を怖いという思いもあるが、期待が大きいのも事実である、

 蔵人が睡眠薬を入れたなどというのは、きっと妄想に違いない。妄想と現実の狭間は、夢と現実の狭間とは違うものであろうか? 梨乃にはまったく違うものに思える。同じであれば、夢を過小評価している自分と、妄想を過大評価している自分のどちらを信じればいいのかを考えてしまうからだ。

 彼が言った、

「小説をラストから読む」

 と言ったくせ、これが伝染であるとすれば、彼との距離を自分が考えているよりも感じていないのかも知れない。それは元から望んでいたことではないはずなのに、短いと感じただけで、彼に惹かれてしまっているかも知れない自分を感じた。

――あれだけ、彼を弄んだのに――

 相手が弄ばれたとは思っていないのであれば、梨乃が忘れてあげればいいことである。しかし、忘れてしまいたくない自分がいるのも事実で、

――本当に彼も忘れてくれるのかしら?

 と思うと、決して彼が忘れるはずのないことを意識している自分を感じた。逆に彼が梨乃に惹かれているとしたら、その時のイメージがあるからなのかも知れないが、今の彼からは子供の頃のイメージはまったくない。苛めたり苛められたりしたという感覚ではなく、スキンシップのようなイメージを彼が持っているのかも知れないと思うのだった。

――苛められて悦ぶという性癖の人もいるというけど――

 分かってはいても、今の彼にはそれを感じない。颯爽とした雰囲気は、梨乃に対して、

――包み込んであげる――

 という、立場的には完全に子供の頃と逆転しているイメージであった。

 梨乃は自分が臆病であることを、他の人に知られたくないという思いをずっと持っていた。それは梨乃だけではなく、誰もが同じ気持ちなのだろうが、梨乃はそうは思っていなかった。

――他の人は、誰も自分のことを臆病だなんて思わないんだわ。だから、私から見て、まわりは、皆自分より自信を持っている人が多いんだわ――

 と感じていた。

 自分だけが、まわりに対して臆病になり、不安が拭いされないと思うようになったのは、夢の中で母から、

「あなたは人間ではないのよ」

 と言われたことが原因だったような気がする。

――まわりの友達も、皆親から作られたサイボーグなんだわ――

 と感じるようになった。

 ただ、人間ではないことが、本当に自分よりも優れているのかどうか、疑問であった。自分よりも劣っているという気はしないが、優れているとも思えない。

――じゃあ、自分とまったく同じだというの?

 と考えるとそれもおかしい。それであるならば。自分もサイボーグではないかという疑問が湧いてくる。不思議な感覚だ。

――友達は皆、自分がサイボーグだということを知っているのだろうか?

 親友と呼べる人がいるわけではない梨乃にとって、まわりの人はある意味平等である。特別好きな人がいるわけではなく、嫌いな人がいるわけでもない。もっとも、友達だと思っている人に、嫌いな人がいるわけもなく、やはり、あれから友達に対して、人間だという目で見れなくなってしまった。

――皆がサイボーグなら、行動パターンを読むことだってできないわけではないわね――

 何かの法則に従って、それに伴い行動しているはずである。人が考え、造ったものであるならば、人と同等か、それ以下でしかない。それ以上ということは絶対にありえないのだ。

 そうなると、普通に考えれば、行動パターンを読むことがさほど難しいわけではないだろう。もちろん、時間が掛かるのは当たり前のことだが、行動パターンが分かってくれば、梨乃は、行動パターンを予想することも不可能ではない。

――占い師が言っていたように、私が占いに関わることもできなくないんだわ――

 と考えるようになった。

 さすがに、まわりの友達が本当にサイボーグなどと思っているわけではないが、サイボーグのつもりで見ていると、案外、皆同じパターンで行動しているように思えてくるようになった。

 言動だって同じことだ。

 誰かが一つの意見を出すと、それに対して逆らう人はあまりいない。友達として会話しているのだから、それが当たり前だと思っていた。それは発言者に気を遣っているということ、そして、下手に逆らうような意見を言ったものなら、その人から恨まれてしまうのではないかという思いに駆られることで、逆らうような意見を言わないのが当然に思えた。

 集団の中で一人が意見を言う。それはいつも決まっている人である。そして、それに対して誰も反対意見を言わない。言うとどうなるかというと、「村八分」だ。

 これは昔からあることで、村八分になってしまうと、昔であれば、死活問題であった。逆らったがために生活が立ち行かなくなり、誰も助けてくれない状況に陥り、後は悲惨な末路が待っているだけである。

 人間の歴史は、その繰り返しだ。誰から教えられたわけではなく、身体に沁みこんでいるのかも知れない。親たちは、そんな汚い姿をなるべく子供たちには教えないようにしている。しかし。その子供が大人になると、同じことを繰り返しているのだ。

 奥さん同士の井戸端会議や、会社などの組織内でも、似たようなことが行われているのだろう。そのおかげというべきか、小説の世界でも、話題に事欠かない。小説というのは人間物語の凝縮版だと思っている。教えられたわけでもないことを想像で書けるというのも、意識が遺伝しているのかも知れない。

 性癖が人に伝染したり、意識が遺伝したりするのは、梨乃の今までの発想からすればあまり考えられないことだった。考えてしまうと、

――どうして思い浮かばなかったんだろう?

 と思うほど、自然とイメージできるのだ。きっと、発想というものは、

――基本的に、綺麗なものだけを頭に浮かべよう――

 と思うものではないだろうか。

 それにしても最近いろいろなことを考えるが、その共通性として、占い師から言われたことに結びついてくるというのも不思議なものだ。

――占い師が私の前に現れたのは決して偶然ではないんだわ――

 と、思えてならなかった……。

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