第7話 違和感

湊は本島での事件を簡単に片付けた後、酒屋を彷徨きながら、事件の状況を確認するために桐崎へと電話をした。

 「鮎川さんとこのおばあちゃんの件、解決したかい?」

 「あの、春野?という彼が犯人だという話で固まってるよ」

 湊は不審に思った。

 「飯島は捜査に協力出来ていなかったかな?」 

 「いや、彼の証拠品への信頼は全幅だ。それですぐに断定できたよ」

 湊は頭がこんがらがった。

 「そんな馬鹿な」

 「今日はもう船がないだろう。明日本島へ移送だ」

 「そうですか…わかりました。ちなみに、死因は?」

 「睡眠薬をもってカップで頭をガーンだ」

 「飯島がそう言いましたか?」

 「そうだ」

 

 その晩、湊は考えていた。

 春野くんはヒョロヒョロで、人を撲殺できるだろうか。睡眠薬を盛ったとはいえ。確かに、人が侵入してきた形跡は無かった。しかし、飯島の腕は確かだ。鈍ったのだろうか。いや、そんなレベルではない。大きな違和感を感じる。酒をあおり、少し横になった。鮎川さんに関する記憶が流れる。


 「こんにちは!」

 その少女は溌剌としていた。元気いっぱいで、美人だった。見かけるときはだいたい誰かと話をしている。

 八百屋や漁師、話している男性は皆デレデレしていた。どうやら最近ここへ越してきたらしい。若い女性のいないこの島ではもはやアイドルのような扱いだった。祖母と散歩しているのもよく見かけた。祖母とも仲が良さそうで、絵に描いたようなおばあちゃん子だった。

 半年すると、すぐに島に馴染んだ。だが、その頃から祖母と散歩する姿を見かけなくなった。マスターが言うには、足が悪くなったそうだ。それからは見かけることも減った。見かけるときは何かを買って黙々と帰る姿になっていた。それを見かね、色んな人が野菜など色々なものを届けるようになった。

 ある日、飯島に用があり、交番へと行ったが姿が見えなかった。なのでそのままそこで待っていた。

 一時間ほど経過すると、飯島が戻ってきた。どこへ行っていたのか、と尋ねると、鮎川さんのお宅へ見回りに行っていたらしかった。

 今まで暇だからという理由でしかほとんど見回りをしなかった男にそこまでさせるとは、アイドルは凄いなと感じた。

 さらに半年ほど経った時、春野くんがやってきた。浮かれた都会の若者という感じだったが、少し話してみると中々面白く、興味が湧いた。何日か喫茶店に通ってくれていたある日、パタリと来なくなった。喫茶店の他のお客さんの話を聞くに、アイドルとラブラブらしい。おばさまは熱愛の様子を報告しあって、楽しげだった。

 しかし、男性は喜びつつも悔しそうではあった。結構悔しそうなことに驚きは隠せなかった。飯島も見回りから帰ってきて、今、デートしてんでしょうね、取られた気分がしなくもないです、と珍しく強気な発言をしていた。

 湊はそんなことを思い出しながら、そのまま眠ってしまった。

 

 目が覚めると、連絡船の時間の一時間ほど前だった。起き上がり、やや頭痛が響いた時、繋がった。

 春野くんが犯人になり得る可能性があった。私も浅はかであった。これは任せるべきでは無かった。

 しかし、それと同時に島の人間を敵に回す可能性があるということも理解した。

 祖父の言葉が思い出される。

 「正しいことは正しいだけだ、いつも正しいことが正解とは限らない」

 それは祖父と最後に会ったときに私に言ってくれた言葉だ。祖父は正しかったが、孤立し、海に身を投げてしまった。

 同じ末路になるかもしれないが、私は見過ごす事はできない。

 湊は港へと走った。船はちょうど出るところで、滑り込むようにして乗り込んだ。

 船から降りて交番の方へと向かうが、交番には飯島と鮎川がいるだけだった。

 飯島は私と目が合うと、露骨にそらした。そのとき、振り返ると乗ってきた船に春野が乗り込んでいる。桐崎が乗り込む寸前でこちらに気がついて、駆け寄ってきた。

 「湊、なんでここにいるんだ」

 「…彼ではない。犯人は」

 「なんだと?もう移送するところだぞ」

 「少しだけ、時間をくれないか」

 「なんだと?んん、まあいいだろう、現場へ行こうか」

 「春野くんも連れていく、連れてくるから待っててくれ」

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