第32話 アイノクラウディア 皐月賞

 皐月賞当日。一番人気は俺の乗るアイノクラウディアだが、正直アイノクラウディアの血統は良くないので1.9倍の支持。逆にホウオウショウマは血統が父キングオブキングス、母はレイジングブラストの母、レインブラストで馬券師の評価は高く、単勝2.3倍。三番人気は岡田の乗る朝日杯FS馬、レイジング、単勝2.8倍。展開予想はアイノクラウディアが先行、ホウオウショウマが差し、ライジングが追い込みだ。


 正直、アイノクラウディアもまたズブいところのある馬なので、それほど現時点では楽観視できない状況だ。ホープフルステークス2着馬、嵯峨弘之のダンスパフォーマーも怖い。


「作戦は任せる」


 小河原先生からはそう言われており、スタートがいいならそのまま逃げることも視野に入れた。


 やがて発走。ライジングは出遅れ、ホウオウショウマが絶好のスタートを切り、下馬評を覆して逃げる。俺はしまったと思いつつ、ホウオウショウマの後ろに馬を入れた。嵯峨のダンスパフォーマーが3番手で続く。


 向こう正面を回って、ペースは遅いように思えた。レイジングが徐々に進出し、アイノクラウディアの外から嵯峨のダンスパフォーマーが抜きにかかる。俺はここが勝負どころだと感じ、鞭を入れてアイノクラウディアを追い出した。内からホウオウショウマ、その次にアイノクラウディア、更にはダンスパフォーマー。中団外目にレイジング。三頭は大外を回るレイジングの勢いを見ながら必死て追い、鞭を振るう。ダンスパフォーマーが先頭に立ち、大外からライジングが突っ込んで来て皐月賞は終わった。負けたな、と直感した俺は岡田と話す。


「ダンスの勝ちかな?」


「だろうな。惜しい所だったが」


「人気を裏切っちまったな」


「それも競馬だ。いつも人気通りに決まればそれはレースじゃない」


 俺は計量室に戻り、小河原に敗因を聞かれた。正直敗因はわからないが、こう言った。


「ダンスパフォーマーに楽をさせすぎた。もっと前目で競馬をしてスタミナ勝負にするべきでした。ダービーでは距離が延びる。今回より行けると思います」


「そうだな。ダービーのチャンスを無駄にするなよ、アキト」


 小河原先生はそう言い、引き上げて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る