第31話 シークレットエデン 桜花賞

 シークレットエデンはチューリップ賞から桜花賞に向かうことになり、フィリーズレビューの結果が待たれた。シークレットエデンがチューリップ賞を難なく勝った後、フィリーズレビューをレコード勝ちしたのがロンリィバタフライだ。鞍上は神野五郎で、今年こそ桜花賞を勝つとヒーローインタビューや競馬各紙に嘯いていた。実際、ロンリィバタフライは強い。脚質的にもシークレットエデンと被るので、叩き合いで決着になるだろう。日程の関係でアイノクラウディアは弥生賞を回避し、スプリングステークスから皐月賞に向かうことになった。滝川のホウオウショウマがシンザン記念、共同通信杯を勝ち、弥生賞に登録している。皐月賞の相手はとりあえずこの馬だろう。滝川得意の差し馬だ。




 そして桜花賞当日。人気はシークレットエデン1.4倍、ロンリィバタフライ1.6倍と完全に割れた。あと桜花賞を勝てば平地G1全てを勝利したことになるゴローちゃん陣営は燃えていた。


「人気が割れたか。まあ普通に差していけ」


 松沢先生はそう指示を出す。


「ロンリィも差してきそうだけど」


「ロンリィバタフライは多少の我慢の効く馬だと見たが、シークレットエデンはそんなに器用じゃない。今日は相手関係は無視しろ。地力の違いで勝てる。いいな?」


「はい」


 パドックから地下馬道を抜けて返し馬へ。一番人気と言えど油断はできない。輪乗りの最中も俺はシークレットエデンの首を撫でてやり、馬をなだめた。


 ファンファーレからスタートに。出遅れた馬はいないが、ロンリィバタフライは出が良すぎ、ゴローちゃんは少し迷って後ろに下げて行った。難しい場面だろう。馬なりで走らせて勝てるほどG1は甘くない。ロングストレッチから第三コーナー。徐々に後続が追い出しを始め、俺はロンリィバタフライを見て最終的に併せ馬になるように微調整しながら馬を追う。最終コーナー回って最後の直線中盤でシークレットエデンは先頭に立つと、その外からロンリィバタフライが迫る。両者真っ向からの叩き合いとなり、しかし首差でこちらがかろうじて勝った。ウイニングランから戻ると、ゴローちゃんが男泣きしていた。前に行っておいたらと考えたのだろう。俺はゴローちゃんを刺激しないように粛々とヒーローインタビューを受けた。

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