第24話 タタルカン 頂点へ

 月日は流れ、12月、タタルカンはいよいよ目標の朝日杯フューチュリティステークスに駒を進めた。同世代最大のライバル、ラディウスがホープフルステークスに回ったこともあって、単勝1.6倍の一番人気に指示された。滝川陣営はキングオブキングスの半弟、ナイトハルトで単勝2.3倍の2番人気。


 相手関係はナイトハルトだけだと思っていた俺は、松沢調教師に直談判する。


「今回、馬なりで逃げてもいいですか?」


「相手がいないからか……」


「下手にナイトハルトを意識すると、多分負けますよ」


「わかった。好きに乗れ」


 松沢先生の快諾を得て、俺は今回は馬を一切抑えず、行った行ったの競馬をすることにした。ナイトハルトは後ろからの競馬をするだろう。セイフティーリードは10馬身だ。


 レースが始まり、トップに出るまで俺はタタルカンを追い、後は馬の行く気に任せた。単騎の高速逃げとなり、場内がどよめく。ナイトハルトの姿はこちらから確認できない。第4コーナーを回っても後ろから来る馬はいない。


 俺は徐々に追い出し、10馬身後方に馬群を見て、勝利を確信して馬を追う。ナイトハルトが脚色も良く二番手に立つが、残り200メートルで8馬身差。俺はタタルカンに鞭を見せ、タタルカンはそれに応えて加速する。そのままゴール板を駆け抜け、俺はついにG1ジョッキーに名を連ねた。その嬉しさは今までの思い出の比較ではない。全身が総毛立ち、俺はガッツポーズと共に吠えた。


 勝利者インタビューで何を言ったのかも覚えていない。そのくらいの興奮だった。


「よくやったな、アキト」


 松沢先生がそう俺に言う。


「夢じゃないですよね? 本当は俺は病院のベッドで寝てるとか」


「夢じゃないよ。本当によくやった。斎藤先生も天国で喜んでいるだろうし、僕の初G1でもある。ありがとう。


「こちらこそ……なんというか……」


 俺は感激して涙を流し、他には何も言えなかった。

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