第21話 天の涙
そして天皇賞秋本番。空は薄暗く、いまにも雨が降りそうだが馬場状態は良馬場。流石にG1だけあって、メンバーはみな重賞馬だ。俺はジュダースクライを返し馬に入れ、フィーリングをチェックする。調教でも俺が乗ったことはないので、ここで脚色をチェックするのは重要だ。タタルカンはパワーで押し切る走りだが、ジュ―ダースクライの動きは軽い。輪乗りでは馬が怖がらないように慎重に歩かせた。
G1のファンファーレが鳴り、各馬がゲートインする。キングオブキングスが三枠、ジュダースクライが9枠。人気はキングオブキングス単勝1.2倍の圧倒的支持だ。スターターがスタート台から旗を振り、ゲートが開く。ジュダースクライはまずまずのスタートを決めた。逆に絶好のスタートは神野のキューティレインだ。逆に滝川のエレガンスマシーンは出遅れた。
前からキューティレイン、その後にノッテケイチバン。三番手にレイズアライブ、ウリエルが続いてキングオブキングスが中団先頭、ついでジュダースクライ、次にトウエイライトニン、最後方に滝川のエレガンスマシーン。
レースは終始キューティレインのペースで進み、やや遅め。追い込み勢のジュダースクライには不利な展開で、逆に好位から差せるキングオブキングスは有利だ。
俺はここで決断する。少しでもキングオブキングスに並んでおくため、馬を少し追って前に出した。
最終コーナーが迫る。キングオブキングスはキューティレインの外を回してトップに躍り出る。俺とジュダースクライはその少し外を回して二番手に食い下がる。キングオブキングスは伸び脚が悪い。これまでで脚を使っているからだ。やがて直線の中盤でジュダースクライとキングオブキングスで叩き合いになる。後方を見る余裕はなかった。
残り150メートルでジュダースクライの更に外から滝川のエレガンスマシーンが馬体を合わせてくる。ジュダースクライは怯えて脚色が鈍る。
「滝川? くそっ!」
「わるいけど、僕に斎藤先生への恩義はない」
俺は必至で追いすがるがエレガンスマシーンの脚色は衰えない。このまま決着かとあきらめかけたその時、後ろから大声がする。
「一馬身外に出して追え! アキト!」
最後方から突っ込んでくる岡田の声だ。俺はエレガンスマシーンの更に外に出した。ジュダースクライの脚色は良くなり、外から差し返す。更にその内から、トウエイライトニンがもの凄い脚で突っ込んで来てレースは終わった。
「どうだった?」
俺は岡田に訊いた。
「わからん。躱したはずだが、わからん」
掲示板は上位二頭が写真判定。ジュダースクライは三着。キングオブキングスが四着。五着にレイズアライブ。
斤量室に戻ると、結果が書きだされていた。一着は岡田のトウエイライトニン、二着に滝川のエレガンスマシーンだ。
「やった! 勝ったじゃないか! 岡田!」
「ああ、勝った、勝った!」
俺と岡田は抱き合って喜び合う。その時、雨が降り始め、俺はきっとこれは斎藤先生の涙だろうと思った。
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