第20話 ジュダースクライ

 アイノフラワーは岸が乗り、秋華賞を二着で終えた。勝ったのは神野のオークス馬、キューティレインだ。レース後、小河原調教師からエリザベス女王杯も岸で行くという連絡があった。俺の実績を考えればしかたないし、これでジュダースクライの天皇賞に集中できるとプラスに考えた。


 天皇賞秋には、岸のキングオブキングス、岡田のトウエイライトニン、神野の牝馬二冠馬、キューティレイン、三島のウリエル、去年の秋華賞とエリザベス女王杯、ヴィクトリアマイルと今年の毎日王冠を勝った滝川のエレガンスマシーン、マイケル・ベルモントのレイズアライズ、サマー2000の覇者、ヨシノリのノッテケイチバンとそうそうたるメンツがそろう。キングオブキングスがダントツで一番人気だったが、それに唯一先着したジュダースクライは穴馬として印が厚く打たれて、五番人気とまずまずだった。


 レース開始前、俺は成克さんにジュダースクライの株を全部持っている最上ひかりという女性に紹介された。


「アキト、この人がジュダースクライの馬主、最上ひかりさんだ。音楽関係の仕事をしている。ひかりさん、こいつがアキト。僕が目をかけてる新人ジョッキーだ」


「よろしくおねがいします」


 最上さんはまだ若く、二十代後半に見える。成克さんの愛人なんじゃないかとも思ったが、そこは触れてはいけないゾーンだろう。


「よろしくね、アキト君。ジュダースクライは能力はあるけど気が弱いの。馬群に入れないでうまいこと外を回って。ただしキングオブキングスも大外を回す馬だからこれより一馬身は前を走ること。その作戦で負けたら納得するわ」


「わかりましたけど、先生の指示が優先ですから」


「そりゃ、プロだもの。任せるわ」


「勝つとはいいませんけど、失望させないように走らせます」


「それでいいさ。アキトは初G1だ。勝てば競馬史に名が残る。デビュー一年目でG1に乗ることさえ偉業だからね?」


「成克さん、あんまり持ち上げるとアキト君のプレッシャーになるから」


「そうだな。斎藤先生に顔向けできない負け方をしなければ、次のジャパンカップも君でいいとひかりさんは言ってる。いい競馬をしろよ」


「はい!」


 俺はその後、下妻調教師の所に行って作戦を聞いた。


「作戦どうします? 下妻先生。オーナーからはキングオブキングを後ろに置いて差しの指示ですけど」


「有馬がその作戦だったからな。だが今回、キングオブキングスは3枠で内を回って先行するかもしれん。あんまりあの馬の後ろには居たくないが、ジュダースクライは馬込みを嫌う。大外を回して直線競馬でいい。気負いすぎて馬をつぶすなよ? アキト」


「はい!」


 俺はイメージトレーニングしながら天皇賞秋の発走に備えた。

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