第18話 斎藤先生、倒れる

 翌日、俺が厩舎に顔を出すと、斎藤厩舎はざわめいていた。


「なんすか? この騒ぎ?」


 仁さんに俺は訊いた。


「先生が倒れた。今、救急車呼んだところだ」


「倒れたって、どうなるんですか?」


「先生が留守中は僕が厩舎を回す。そういう取り決めになってる」


 俺は担架に乗せられた先生に声をかけた。


「先生! 斎藤先生!」


「やめておけアキト。車を出すから」


 救急車が出た後、俺と松沢氏、先生の次男、斎藤哲史氏は車で美浦中央病院に向かった。緊急手術が終わったあと、哲史氏が先生の様態を聞いている。やがて哲史氏はこちらに来て、こう言った。


「脳梗塞だそうだ。状態はあまり良くない。覚悟をしておいてくれと」


「そんな……」


 俺と松沢氏は言葉を失う。遅れてやってきた岡田にも哲史氏は同じ説明をした。


「アキト、次の天皇賞、お前はトウエイライトニンに乗れ。俺はどこかから馬を探す」


「なんでさ?」


「先生のために天皇賞秋を勝つ。それだけだ」


「わかった」


「トウエイライトニン陣営には俺から話を通す。俺は小河原先生に頭を下げてキングオブキングスに一戦だけ乗せてもらう」


「キングオブキングスはG1六勝じゃないか? 主戦の岸さんに恨まれるぞ?」


「岸にも理由は話す。天皇賞を取る。先生の様態が急変しても動揺するな。トウエイライトニンは追い込みしかできない馬で脚は400メートルしかもたない。わかったな? アキト」


「ああ」


 斎藤先生が目を覚ます見込みはかなり薄いし、容態はかなり悪い。斎藤厩舎関係者は総力を挙げて、なんとしてもという意気込みで天皇賞秋に向かって動き出した。


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