第14話 アイノフラワー 紫苑ステークス
9月に入り、いよいよ紫苑ステークスの週になった。とはいえ俺はここまで27勝で、秋華賞に乗れるかどうかは別の話だ。アイノフラワーは単枠指定の一枠なので、ここでも逃げると決めていた。人気は5番人気。神野のスターライトマインが3枠発走で一番人気、2番人気は滝川のヴューティリオン、13枠発走。紫苑ステークスでは俺は神野の馬を後ろに置いて競馬をする。滝川は後方待機策を取って俺の位置からはよく見えない。直線向いて、俺はアイノフラワーを追うが、手ごたえが怪しい。神野のスターライトマインに前に出られ、俺は目標を三着確保に変えた。直線大外から滝川のヴューティリオンが追い込んでくる。本番の秋華賞に向けて、ヴューティリオン陣営はわざわざ遠征してきたのだ。あっという間にアイノフラワーは抜かれ、ヴューティリオンの足いろはまだ衰えない。神野のスターライトマインも躱して、先頭でゴールした。次いでスターライトマイン。その次には三島誠のカッタウェイが入り、俺は首差の四着だった。
俺は敗戦後、小河原調教師に敗戦の弁を作戦ミスだと言った。馬の地力が違いすぎた。最初から三着を狙えば良かったのだ。
「作戦ミスですね。直線までで脚を使いすぎた。完敗です」
「掲示板には入れたから勘弁してやる。秋華賞は岸で行く。お前も勝利数が足りていないしな。秋華賞の結果次第ではエリ女も岸だ」
「わかりました」
俺はそう言うと帰り支度を始めた。
「神野君、負けるのはいいが、やられすぎじゃないか?」
神野がスターライトマインの調教師、萩原浩志に詰め寄られていた。
「まあ負けはしましたけど、今回で向こうの手の内はわかったから秋華賞では逆転しますよ」
「ホントにござるかぁ?」
俺は萩原氏の声真似をしながら言った。
「アキト、ご苦労さん」
「お前がアレか……」
「アレってなんすか?」
「産まれた時代が悪かったな。滝川は何勝目だ? 今ので」
「53勝目っすかね」
「どうだアキト、うちの馬に乗ってみるか?」
「乗れと言われれば犬にでも」
「美浦に帰ったら厩舎で待っていろ」
「アキト、ごはん行こうよ」
実にチャラく、神野は言った。
「おごりなら」
「おごるおごる。最終レース終わるまで待ってて」
「あざーす」
俺がそう言うと萩原氏がこう言う。
「その言葉遣いなんとかしたほうがいいぞ? アキト。僕は気にしないが、年寄りには舐められてると受け取られる」
「相手を選んで言ってるに決まってるじゃないですかぁ~。やだなぁ~」
「神野さん、食事が終わったらアキトを僕の厩舎まで」
「マジで俺を使ってくれるんですか? ヨシノリ大先生じゃなく?」
「義典はあまりあてにならんからな」
「はっきり言うんですね」
「それじゃあ後でな」
俺は最終レースが終わるまで、ロッカールームで待った。
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