第8話 タタルカン

 季節は夏になり、新馬が斎藤厩舎に次々と入厩してくるようになった。


 俺はこれまで17勝を挙げ、新人としては滝川に次ぐ成績をキープしていた。


 他の同期は牧野しおりが5勝、三島義典の甥、三島大樹は伸び悩み3勝の成績だった。


 そんなある日のことだ。


 俺はまだ岡田弘明のお手馬を代理で乗ってるだけで、お手馬と言えるのは3歳牝馬のアイノフラワー一頭だけだった。


 アイノフラワーは調教まで任されていたが、他の馬は調教助手の松沢仁と斎藤厩舎の主戦騎手、岡田、それと世渡り名人のヨシノリが調教で乗っていた。


いつものように厩舎の清掃を手伝っていると、斎藤先生がふと現れ、こう言った。


「アキト、お前に任せたい新馬がいる。今日入ってくる。馬主はあの松平グループの総帥だ。これはお前にとってもチャンスだ。何としても来年のクラシックまでに30勝に乗せろ。ダービーは長そうだが皐月賞かNHKマイルを狙える素質はある。名前はタタルカンだ。気性が荒いが体の作りはいい。それと、アイノフラワーをラジオ日経賞に出すぞ。騎手はお前だ」


「マジですか?」


「お前も重賞に乗っていいころだ。順調にここまで十七勝を上げてるし、来年のクラシックはもう始まってる。今週からは調教にも乗ってもらうぞ。ヨシノリには悪いが他所の馬に乗ってもらう。ただし! お前が駄目だと判断したら降りてもらう。いいな?」


「デビュー初年度の残念ダービー、やってやりますよ!」


 俺は両頬を両手でパン! と叩き気合を入れた。

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