第6話 漢、岡田弘明
アイノフラワーでデビュー当日勝利を飾った明人を、競馬ジャーナリストが囲み、取材を受けていると、同じ騎手の三島義典が声をかけてきた。
「アキト、初勝利おめでとう。今週末は開けとけよ?」
「なんでよ?」
「神野さんが初勝利の祝賀会をしたいってさ。酒はまだ飲めないだろうが人付き合いも仕事だと思って顔を出せよ?」
「わかったよ、ヨッシー」
「ヨッシー……まあいいさ。競馬界は縦社会だが、そういう堅苦しいのは俺とお前との間ではなしだ。でも神野さんには粗相をするなよ?」
そして日曜の競馬場、明人は乗り鞍一つで、それは未勝利に終わったが二着に入れ、メインレースに出る競馬界の神様、神野五郎を待った。メインレースは神野と岡田弘明との壮絶なたたき合いで、鼻差で神野が勝った。
競馬場から引き揚げてくる岡田は、明人を見つけると声をかけた。
「何年ぶりかな? こうして会うのは……。昨日は、その……」
「言いよどむなら言わねーでいいよ。岡田」
「岡……、そうか。他人だものな。すまない」
「惜しかったな、さっきのレース。この後神野さんが俺の祝勝会開いてくれるんだ。来ないか?」
「悪いが行かない。お前の事じゃない。ゴローとなれ合いたくないだけだ」
「……かっけーな、親父」
「親……ありがとう、アキト。いままですまなかったな」
「そういう湿っぽいのはなしだぜ岡田。俺はあんたに勝ちにきたんだ。あんたの持ち馬奪って、引退に追い込んでやる」
「そうか。楽しんでこい、祝勝会。ようこそ競馬会へ。なにかあったら相談には乗ってやる」
「わ、わかった……」
アキトは数年ぶりに父と話し、緊張しながら漢、岡田弘明を見送った。
そうして始まる。アキトの父越えの戦いが。
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