第5話 夢の始まり

 そして3年の時が過ぎ、アキトはデビューを迎えた。


 競馬学校主席卒業者に送られるアイルランド表彰は、同期の滝川に譲ったが、競馬サークル内での評価は高く、デビューは滝川と同じ4頭の馬に恵まれた。


 内、二頭が斎藤厩舎、もう一頭は、関西所属の小河原正二調教師がわざわざアキトのデビューに合わせて、関西から遠征してきた2勝馬、アイノフラワーである。アイノフラワーは芦毛の牝馬。2勝馬ながら、評価は高く、G1も狙えると小河原が見込んだ馬だが、臆病なためにブリンカーとシャドーロールを着けていた。


 レース当日、パドックでアイノフラワーに跨がったアキトは、アイノフラワーのうるさい所を見て、厩務員に言った。


「この馬、ブリンカーとシャドーロールが嫌なんじゃないか? 全然、集中してないぜ?」


「ブリンカー外せっちゅうのか? 小河原先生に訊かないと俺ではどうにもならんわ」


「次走からでもいいから、今回は好きに乗っていいか? 馬込みを嫌うだけで、それほど臆病にはオレには思えないんだ」


 アキトのデビュー2戦目のそのレースで、いつもは逃げるアイノフラワーを後ろからの競馬をして、最後の直線で長くいい脚を使って、アキトは単勝7番人気のアイノフラワーで快勝して見せた。


 ライバルの滝川はデビュー初騎乗初勝利を飾ったが、アキトはそれに続いてデビュー当日に初勝利を飾った。


 それを斎藤調教師が出迎える。


「やったじゃねえか坊主。ウチの馬じゃねえのが残念だが、良く乗った」


 アキトは笑顔でそれに答えた。


「馬が良かっただけですよ」


「次のウチの馬も頼むぞ、アキト」


「やってやりますよ」


 この初勝利で自信を付けたのか、アキトは次のレースでも勝った。


 だが、滝川は初勝利から4連勝を飾り、その日の競馬関連のニュースは全部滝川に持っていかれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る