第24話 新しい武器
部屋まで届いた香ばしい香りで目が覚めた。ふらふらと誘い込まれるように匂いの元へと向かうと、そこには朝食を作るカルロの姿があった。
「おはようございます!」
「おはよう、シエラ」
シエラの声に反応してカルロが振り返る。その手にはフライパンが握られていた。
「親父さんはどうしたんですか?」
「ああ、もう仕事の時間だそうだよ。工房に行ってる」
「わぁ、朝早いんですね」
「そうだね、だからパンだけ齧って工房に降りてしまったよ。あと好きな材料を使っていいと言われたからオレはオレたち用の朝ごはんを作っていたんだ」
「カルロさんの手料理! 楽しみです!」
「ははっ、あんまり期待しないでくれよ?」
カルロが苦笑する。
道中以外でカルロの料理を食べるのはこれが初めてな気がする。どんな料理を作ってくれるのか楽しみだ。
シエラは食器の用意をするとカルロに言われた通りに席に座って完成を待った。
美味しそうな香りが漂ってきているのでお腹が鳴ってしまいそうだ。
「はい、できた」
「わぁ、美味しそうですね!」
カルロが作ったのは昨日シークにあげたイデカイノシシの干し肉を細切れにして白米と一緒に焼いたものだ。いろんな調味料が使われているのだろう。白米の色は黄色っぽく染まっていた。
「昔どこかの国で教わった料理なんだ」
「へー、外国のお料理ですか」
「と、言ってもオレなりにアレンジが入っているけどね。肉が少なくても米さえあればたくさん作れるから結構いいよ。よかったら食べてみて」
「はい、いただきます!」
階下から聞こえてくるカーンカーンという音を聞き流しながらカルロの作ってくれた朝食を食べた。
胡椒が入っていたようで見た目より濃い味付けでとても美味しかった。刻まれた干し肉がいいアクセントになっている。
「今日の昼頃には出来上がるそうだよ」
「本当ですか! 楽しみです……値段が心配ですけど」
「どうかした?」
「いや、なんでもないです」
せっかくカルロからの好意なのだ。親父さんも頑張って作ってくれたのに受け取らないというわけにはいかないだろう。
シエラは誤魔化すようにご飯を口に突っ込んで黙った。
朝食を終えて数刻。太陽が頭上で熱を振りまき始めたころ、親父さんに呼ばれてシエラたちは工房に集まった。
「できたぞ」
そう言って短剣がシエラに手渡される。
「かるっ!」
それはシエラが今まで使ってきた短剣よりも軽く、しかしながら刃の輝きから切れ味も良さそうだ。優しく刃の部分を触ってみるが、薄いながらに丈夫そうでこれなら魔獣の急所も貫けるだろう。
「すごい……」
「まぁ、ちょうど材料が余ってたってのもあってな。結構はやく完成できた方だぜ。もちろん切れ味は保証する」
「いいね! シエラ、さっそく試してみようよ」
「はい!」
新しい武器に心躍らない冒険者などいないだろう。シエラはカルロの提案に二つ返事で頷いた。
シクの町を出て、近場の森の中に入る。
この森にはCランクの魔獣がいっぱいいると親父さんから聞いた。本当は同じBランクの魔獣と戦ってみたいとは思うが、いないのならしかたがない。
それにいくらCランク魔獣とはいえ、数が多ければこちら側が不利になる。そばでカルロが見守ってくれているので大事には至らないだろうが、シエラのような奇襲を得意とする冒険者にとって魔獣に囲まれるのはなんとか阻止したい。
「じゃあシエラ。とりあえずあそこの魔獣の群れに飛び込んでみてくれ」
囲まれるのは阻止したいのだが。
「あの、私はカルロさんとは違ってそんなに攻撃力はないんですよ?」
「大丈夫、大丈夫。シエラならできる」
「そんな!」
軽いノリでシエラはCランク魔獣の中に放り込まれた。
雑草を食べていた魔獣たちがシエラの方を向く。そして――。
「襲いかかってきた!」
当たり前ではあるのだが、魔獣たちはシエラに向かって襲いかかってきた。シエラはとっさに避けて、新しい短剣で魔獣を斬る。
「!」
軽い。工房で持ったときにわかってはいたことだが、この短剣は軽く振りやすい。
柄も掴みやすく力を入れやすいので俊敏さを大事とするシエラの行動を邪魔しないどころか、むしろ素早さが上がっている気がする。
「なっ、なんだか倒せそうな気がします!」
「頑張れー」
カルロの声援を背中にシエラは魔獣と対面して戦いを続けた。
十体近くいた魔獣は徐々に数を減らし、ついには最後の一体となった。
「これで、終わり!」
シエラの俊敏な動きについてこれなかった魔獣はシエラに懐に入るのを許してしまい急所を叩かれて倒れ込んだ。
「お疲れ」
「カルロさん! 私やりましたよ! ランクが下とはいえ、魔獣と対面状態で勝てました!」
「うんうん。シエラならできると思ってたよ。だってシエラは強いんだから」
そういえばこのまえもカルロが同じようなことを言っていた。たしかにBランクはあるのでそこまで弱いというわけではないだろうが、Sランク冒険者に褒められるほど強くはないと思う。
「私って強いんですか?」
やはり自分がそんなに強いとは思えない。シエラは首を傾げた。
「強いよ。多分もうすぐAランクに上がれるんじゃないかな? ギルドではいつもサポートばかりやらせてしまっていたけど、多分シエラは大勢で戦うより一人で戦う方が強いタイプだ。ソロの冒険者に向いている」
「ソロ、ですか」
それはそうかもしれない。誰かと一緒に戦うとシエラはいつもそのサポートをしていた。しかしソロの冒険者をやっていたころは毎日魔獣の勉強をしながら一人なりにどうやれば勝てるかいつも試行錯誤していた。
「ああ、いや変な勘違いしないでね? オレはこれからもシエラと旅をしたいと思っているから、急に一人旅をするなんて言ってオレを置いていかないで欲しいな」
「そんなつもりはありませんよ⁉︎」
カルロに置いていかないで欲しいなどと言われたが、もちろんそんなつもりはない。シエラが安心して戦えるのも、こうして旅をできているものまだ未熟なシエラをカルロがサポートしてくれているからだ。
むしろ置いていかれるとしたら自分の方だろうとシエラは思う。
「それならよかった。じゃあ、ひとまず休憩にしようか。さすがに疲れたでしょ?」
「そうですね……はい、疲れましたしお腹も空いちゃいました」
「昼食も用意してあるよ」
「本当ですか⁉︎」
なんて準備がいいのだろう。なんでもカルロは朝食を作ったときに昼食も用意してくれていたらしい。
シエラとカルロは森の中の少し丘のようになった、大きな岩の上で昼食をとることにした。
「んん、美味しいです」
「それはよかった」
シンプルに肉を炒めたものをパンで挟んだだけの一品だが、動いたあとだからというのもあってなかなかに美味しい。
「パンに挟むだけでボリュームが増えるのいいですね」
「そうだね」
パンとはなんて万能な食べ物だろうか。単体で食べても美味しい、こうしてなにかを挟んでも、果物のジャムを塗っても美味しい。
米、パン、麺。地域によって変わるが主食となる食べ物はどれも万能だとシエラは思った。
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