第17話 シク
「さ、もう少しで目的地に着くよ」
「職人飯ですね!」
「お腹が空いてるのはわかるけど……」
ご飯のことを考えて目を輝かせるシエラを見てカルロは苦笑した。
馬車が通った道なりに歩いているとしばらくして前方からカーン、カーンという甲高い音が聞こえてきた。歩けば歩くほどその音は大きくなっていく。
「もう着くね」
「そういえば職人が多い町だって言ってましたけど、どんな職人さんがいるんですか?」
「そうだな……刃物の町と言われているだけあって、やっぱり鍛冶屋が多いかな」
「刃物の町! カルロさんの使っている剣を作ったところですね!」
「そう。よく覚えていたね」
昔カルロが何年も愛用している剣は馴染みの鍛冶屋で打ってもらったものだと言っていた。
定期的なメンテナンスも任せており、腕の良い鍛冶屋なのだそうだ。その鍛冶屋があるのがハビスカから少し離れた場所にある小さな町・シクだった。
シクは刃物の町とも呼ばれるくらい刃物の生産を得意としており、町に住んでいる住人の多くは鍛冶屋を経営しているそうだ。
どの街にも一軒はかならず鍛冶屋があって武器の調達をするのは可能であるが、やはりシクにいる職人たちの方が腕がいいと評判でわざわざシクまで足を運んで武器を買う冒険者も少なくない。
多くの名の知れた冒険者や、カルロなどのSランク冒険者もシクに行きつけの鍛冶屋があるそうで、新米冒険者はシクで良い武器を調達するのを第一の目標に立てているものも多くいる。
「新しい武器でも新調するんですか?」
「まぁ、それはーうん……ついてからのお楽しみってことで」
「?」
シエラが尋ねるとはぐらかされてしまった。
お楽しみと言われてはこれ以上追求しても答えてくれないだろう。シエラはおとなしく甲高い音を繰り返し響かせる町へ向かって歩を進めた。
「わぁ! ここが刃物の町、シク!」
数十分ほど歩くとたくさんの建物が見えてきた。町の入り口らしい門を抜けるとそこには多くの人が行き交っていた。
ハビスカに比べると断然小さな町なのだが、仕事着を着た職人や武器を調達にきたであろう冒険者の姿で賑わいを見せていた。
当然と言えば当然なのだが、観光客に人気の町というよりは冒険者人気の高い町だ。
そしてなにより特徴的なのは町中から響き渡る鉄を叩く甲高い音。
右の鍛冶屋からも左の鍛冶屋からもカーンカーンと音が響き渡り、町中をこだましている。それに火を使っているからか町の中は全体的に温度が高い気もする。
「この町にオレが行きつけの鍛冶屋があるんだ……けど、その前にクエスト達成を報告しに行こうか」
「この町にもギルド組合があるんですか?」
カルロの言葉にシエラは首を傾げた。
ギルド組合の支部は大体の街に存在するが、あまりにも小さな町や町というより村レベルになると支部のないところも多い。
シクの町の大きさは支部があるかどうか曖昧なラインだ。
「ああ、この町に住んでいるのは職人ばかりで冒険者はいないんだけど、新しい武器の調達や武器のメンテナンスついでにオレたちみたいにクエストを報告する冒険者がいるからギルド組合シク支部が設置されているんだよ」
「なるほど、シクに行くついでにクエストを受ける……高ランク冒険者の方はすごいですね」
シエラならもしこの町に来ようと思ってもクエストなどは受けずにそのまま馬車で来ていただろう。カルロといい他の冒険者は目的地に向かうついでにクエストを受けられるところがすごいと思った。
「いやいや、まえから思っていたんだけどシエラはじゅうぶん強いよ? なぜか弱いと勘違いしているみたいだけど」
「えぇ……そんなことはないと思いますけど」
カルロに褒められるのは素直に嬉しいが、強いと言われても実感が湧かなくてシエラは首を傾げた。
だってシエラが本当に強ければギルドを追放されることはなかっただろう。
「どうしてこんなにシエラは自己評価が低いんだろう……もしかしてあいつらのせいか……? いや、そうだとしたらギルドマスターだったオレのせいだな」
「カルロさん? どうかしました?」
顎に手を当ててぶつぶつとなにかをつぶやいているカルロに声をかけると、カルロはハッとした顔をして首を横に振った。
「いや、なんでもないよ。それよりギルド組合に行こうか」
「はい!」
シエラは頷いて、カルロに案内されながらギルド組合シク支部に向かった。
「しかしすごいですねぇ。見渡す限り鍛冶屋ばかりです」
「刃物の町だからね……と、ついたよ」
町中の光景に気を取られながら歩いていると、カルロが足を止めたのでシエラも同じように足を止めた。
前を向くと、そこには鉄でできた建物が聳え立っていた。看板にはギルド組合シク支部と書かれている。
「ほへー。町によってギルド組合の建物も違うんですね」
「そうだね。その土地の特色に馴染んだ建物をしていることが多いね」
シエラはハビスカ支部にしか行ったことがない。しかし町の雰囲気に合わせて町に溶け込んでいるというのはなんだかいいなと思う。
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