第7話 初めてのクエスト達成1
チチチと軽快な鳥の鳴き声が鼓膜を揺らした。
「んー、うっ!」
のそのそと体を起き上がらせると、ここが木の中だということを忘れていて思いっきり頭を打った。
「ああ、おはようシエラ」
「おはようございます。もしかしてずっと寝ずの番を?」
「まさか。オレもさっき起きたところだよ」
昨日はイデカイノシシを討伐し、食事をとると早々に寝ることにした。
最初は周囲を見張っておくと言っていたカルロが起きてもなお焚火の前にいたので、シエラの代わりに寝ずの番をさせてしまったかと思って少し焦ってしまったが、カルロもちゃんと休めていたのならよかった。シエラはほっと胸を撫で下ろした。
「今日は組合に角を提出して、それから宿を取ろうか。さすがに汗を流したいからね」
「わかりました。今後のギルドの方針を決めるのはあとでもいいですもんね!」
カルロの提案通りに森を抜け、街に戻る。そしてギルド組合ハビスカ支部に着くと受付嬢にイデカイノシシの角を二体分提出した。
「い、イデカイノシシの角が四つ⁉︎ クエスト内容はイデカイノシシ一体の討伐だったと思うのですが」
「二体いたから」
「おいしかったです」
「はぇ?」
昨日に引き続き、受付嬢は意味がわからないと言いたげな顔をしたが、考えるだけ無駄だと判断したのか角を持って奥に引っ込んで行った。
戻ってきた受付嬢はクエストの紙に達成した証の判子を押した。
「これで初クエストは完了だね」
「そうですね!」
シエラたちが受けたクエストが完了したのを見届けてカルロがつぶやく。シエラは頷いた。
これでギルド設立後に行わなければならない業務が終わったので、あとは自由に旅ができるだろう。
「じゃあ宿に行こうか」
「そうですね、肌がちょっとベタついてて気持ち悪いです」
「ははっ、オレもだ」
シエラとカルロは軽やかな足取りでギルド組合を出て行く。
はやくシャワーを浴びて肌に張り付く服の不快感を取り除きたい。
宿へ向かって歩こうと一歩踏み出すとギルド組合の建物の前で見知った顔と出くわした。
「マスター!」
「タージャか」
ギルド組合に用事があったのか、ハビスカ支部の中に入ろうとしていたタージャだったが、カルロの姿を見つけると小走りで駆け寄ってきた。
「どういうことですか! ギルド組合から急に『カルロさんが脱退したのであなたがギルドマスターです』と告げられて、しかも大量の仕事を押し付けていきやがった!」
いつも胡散臭くも丁寧な話し方を心かけているタージャの語尾が崩れる。普段は見せない素が少し出てしまっているが、タージャは気にせずにカルロに詰め寄った。
「そうか、それは災難だったな」
しかしそんなタージャの勢いなど知ったことかと言わんばかりの冷静さで、カルロは簡潔にそう返した。
「なっ、災難どころではないですよ! 拠点には未処理の仕事も残っているのに追加で新しい仕事なんて!」
タージャはカルロに掴みかかるのではないかという勢いでたたみかける。しかしやはりカルロの反応は薄い。
「これでも毎日減らしていったんだけどね。いつもオレが片付ける量より多くの量の仕事が舞い込んでくるんだよ」
やれやれと言いた気にカルロは肩をすくめた。
「あんな量の仕事、私にはできません!」
カルロの隣にいるシエラには気がついていない様子のタージャは首をぶんぶんと振った。相当仕事に追い込まれているのだろう。
「奇遇だな、オレにもできない。ところで、ここにいるということはなにか用があったんじゃないのか?」
「ギルド組合に文句を言おうと思って来たんですよ! あんな量の仕事をいちギルドに押し付けるなと!」
首を傾げるカルロにタージャは顔を真っ赤にしながら、キッとギルド組合ハビスカ支部を睨みつけた。
「言っておくが、Sランクギルドのマスターはどこも同じくらい量の仕事を任されているぞ? それにここはただの支部だから文句を言ったとしても意味はない。仕事はギルド組合本部から来るものだからね。どうしてもと言うのなら王都のギルド組合本部に直談判するんだな」
「そっ、そんな!」
冷静に仕事について説明され、タージャはショックを受けたのか肩を落とした。
いつもは威張っている背中が小さく見える。シエラはタージャのことが少しかわいそうに思えてきた。
「マスター! はやくうちのギルドに帰ってきてください!」
肩を落とし、項垂れていたタージャはパッと顔を上げるとカルロに縋りついた。この人はこんなに騒がしい人だっただろうかとシエラは思いながらも、口を挟むと面倒なことになると察せられたので黙って二人を見守っていた。
「無理だな。オレはもう新しいギルドに入ってしまったし、戻る気はないよ」
「なんで⁉︎」
「ギルドを脱退するのは冒険者に与えられる権利の一つだ。それはギルドマスターだろうと変わらない。後継人さえいればギルドは存続できる。だから問題はないだろう?」
タージャの噛み付かんばかりの勢いに押されることもなく、カルロは自身の意思を通した。
もちろんそれでタージャがはいそうですかと頷くはずもなく、むしろ勢いを増してカルロに詰め寄った。
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