第23話 新たな魔眼
「アイツだろ?黄級をボコボコにしたって青級のガキは」
「何なら、ゴブリンの巣を見つけたのもアイツらしいぜ?」
「魔法も使えるらしいな…実は青級に偽装した高等級冒険者とかだったりして」
「流石にそりゃあねぇだろ。どうやって体縮めてるんだよ」
……気が散る。
私に聞こえないように小声で話してるつもりかも知れないけど、バリバリ聞こえてるからね?
そもそも、隠そうと思ってる?これ。
巣の捜索を終えて帰ってきた冒険者達に、さっきの一部始終を見ていた冒険者がその話を言いふらした。
その結果、あっという間に話が広がって、既に変な尾ひれが付き始めている。
様々な話がされる中、私は魔力操作の練習を続けているけれど…うるさい上に視線が気になる。
おまけに―――
「おいガキ。お前、強いんだってな?」
――こういう面倒なのが湧いてきた。
「……だったらなに?」
「俺と勝負しろや。あんな魔力も使えない雑魚に勝ったからって、調子に乗ってねぇか?」
……確かにコイツは魔力が使えるっぽい。
でも、魔力量も魔力の質も私が勝ってる。
体格では負けてるけど…そんなの魔力を使えばどうにでもなる。
調子に乗ってる訳では無いけど……まあ、こいう人と戦うのも経験だ。
全然ありだね。
「さっきのアイツならまだしも……アンタには手加減できないよ?」
「はっ!全力で掛かってこいや。大人の怖さを教えてやるよ」
そう言って背負っていた大剣を抜いた大男。
首からぶら下げられているタグの色は黄色。
つまり、コイツは黄級だ。
ただ、同じ黄級でもアイツとは天と地ほどの差がある。
「……橙級ではないんだね」
「当たり前だろ。橙級以上はそんなに簡単になれる等級じゃねえ。…逆に言えば、黄級まではあんな雑魚でもなれる等級って事だ」
しれっとあのバカをディスる大男。
しかし、そんな事を平気で言えるだけの実力は確かにある。
「ふ〜ん?でも、黄級の中ではかなり強いんじゃない?」
「そうだな。…まあ、そんな事はどうでもいい。さっさと始めよ――「何やってんだー!!」――チッ、タイミング悪いな」
お互い武器を構え、睨み合っていた所にゲールさんの怒号が響く。
鬼の形相でこっちへ走ってくるゲールさん。
それを見て大男は大剣を再び背負い、私も槍を空間収納に片付けた。
「ん?お前、武器を何処へやった?」
「何処って……………」
不味い…人前で空間収納を使ってしまった。
ゲールさんの話だと、空間収納を使える人は中々居ないらしい。
それなのに、こんなに人がいる場所で……
「……見なかった事にして」
「…分かった。“ソレ”の事は誰にも言わないでおいてやる」
あのバカと違って、話の分かる人で良かった。
…まあ、他の人にも見られてるだろうけど、一々確認して回っても自分から認めてるようなモノだし…放置しておこう。
「お前等なにしてやがる!これから討伐隊を編成しようって時に―――」
「そんなに騒がないでくれよゲール。俺はただ、コイツが本当に噂通りの力を持ってるか確かめたかっただけだ」
「はぁ…だからって、それまで使うか?魔力を使った戦闘なんて…無駄な消耗はよせ」
……ん?
どうして私達が魔力を使ったって気付いたの?
ゲールさんには戦闘力らしいモノが感じられない。
冒険者や魔術師でもない限り、魔力を感じるのは難しいと思うんだけど……痛っ!?
「―――っ!?」
「ん?おい!どうした!?」
突然目を押さえ、よろよろとしゃがみこんでしまった私を見て、ゲールさんは慌てて駆け寄ってくる。
大男も何が起きているのか分からないという表情をしながらも、心配してくれたのか私の背中に手を当てる。
「大丈夫か?虫でも入ったか?」
さっきまでの威圧感を感じる声とは打って変わり、優しい声でそう聞いてくる大男。
まあ、これくらいの気遣いが出来てこその黄級だね。
……ただ、これはゲールさんや大男ではどうにも出来ない。
(この感覚は…魔眼をコピーしてるのかな?一体誰の…ゲールさんか?)
私の魔眼、『魔眼を模倣する魔眼』が発動し、誰かの魔眼をコピーし始めた。
流れ込んでくる情報から察するに…『魔力の流れを見る魔眼』かな?
……いや、これ魔力以外と見えるね。
となると、『オーラの流れを見る魔眼』か。
(オーラを見る魔眼…これまた凄い魔眼をコピーしたね)
我ながら、凄いことをしたと感心していると痛みが収まって、もう目を押さえなくても良くなった。
「ふぅ……なるほど、こんな視界になるのか…」
「は?…何の話だ?」
大男は、訳が分からないという反応を見せる。
まあ、確かに何言ってるのか分かんないよね。魔眼だもん。
「馬鹿な……」
ん?もしかして、私が魔眼をコピーしたことに気付いたのかな?
まあ、確かに自分と同じオーラの流れ方をする魔眼を、急に私が使い始めたら驚くよね。
「どうかしたか?ゲール」
「いや……お前には関係ない。それより、アリーナ。“ソレ”は何だ?」
「…?なんの事?」
こんな人の目がある場所で聞かないでよ。
魔眼なんて珍しい能力なのに、その中でもさらに珍しいんだよ?私の魔眼。
何とか誤魔化せれば良いんだけど…
「……変な魔力の流れが見えたんだが…気の所為だったみたいだな」
「変な魔力の流れ?…別に、魔力を使った覚えは無いんだけどなぁ…」
「いや、俺の気の所為だ。気にしないでくれ」
…良かった。
ちゃんと察してくれた。
ゲールさんはすぐに自分の失言に気が付き、『気の所為』という事にしてくれた。
まあ、大男は疑っているみたいだけど、何も知らない人に見えるものでもないので、そのうち諦めるだろう。
それに、近くで話を盗み聞きしていた人も、私の魔力の流れから興味を失っている。
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