第21話 私の父親とゴブリンの巣

「よし、これで最後だね」


私は、最後の荷物を積み終わると、準備が終わったことを報告しに向う。

結構時間は掛かったけど、他の青級冒険者とも協力して、できるだけ早く終わらせたつもりだ。


「準備終わったよ」


さっきからチラチラとこっちを見てくる、比較的若いオッサンにそう報告する。

ゲールさんとよく話してたから、この人はゲールさんと仲が良いのかな?

それか、部下と上司の関係なのか。


「そうか。では、出発するとしよう。交代でリヤカーを引いてくれ」

「はーい」


若いオッサンから指示をもらった私は、他の青級冒険者の所に走る。

そして、交代でリヤカーを引いて歩くということを伝えると、最初は休んで良いということになった。

まあ、私が1番頑張って準備してたし?

当然といえば当然だね。


私は何食わぬ顔で1番力が強そうな人の引いてるリヤカーに乗ると、足をプラプラさせながら魔力を練る。

こういう暇なときは、魔力を練って常に魔力制御の練度をあげた方がいい。

地道な努力の積み重ねが、強くなる秘訣なんだよ。


「……とても、子供とは思えない魔力制御技術を持っているな」


一人静に魔力を練っていると、若いオッサンがわざわざこっちに来た。

何か言いたいことでもあるのかな?


「私になにか?」

「そうだな……君の親について聞きたいんだ。ゲールさんから聞いたよ。元橙級冒険者なんだって?」


ふ〜ん?

私のお父さんとお母さんについて、ね?

ギルドの職員が、どうして私のお父さんとお母さんについて聞きたいんだろう?


「それは、仕事に必要なこと?」

「いや?ただ、俺が気になっただけだ」


私情かよ!

なにそれ?警戒して損したじゃん…


「…お父さんはアドレイで、お母さんはメリアだよ」

「……ん?アドレイ?」


急に若いオッサンが首を傾げ、『ん〜?』とか『いや…』とかブツブツと呟いている。


どうしたんだろう?

私、変な事言ったっけ?


「……お前の父親は、アリーダ様じゃないのか?」

「アリーダ…?……ああ、お父さんとお母さんと一緒に旅をしてた、槍使いの男の人?」

「そうだ。名前的にも、アリーダ様が父親だと思ってたんだが…違うのか」


アリーダさんかぁ…

お父さんとお母さんがノノー村に根を下ろしたのと違って、あの人はそのまま旅を続けたらしいから、私は会ったことがない。

もし出会えるなら、アリーダさんが見て来た世界の話も聞きたいな。

きっと、面白い話が聞けるよ。


「……本当に、アリーダ様の子供じゃないんだよな?」


アリーダさんがどんな人か、お母さんから聞いた特徴を元に想像していると、若いオッサンはもう一度そんな質問をしてきた。


「そのはずだよ?だって、アリーダさんはそのまま旅立っちゃったし。村には居ないもん」

「稼ぎに出ているという可能性はないのか?」

「無いと思うよ。12年間あの村で過ごしてきて、一度もアリーダさんに出会ったこと無いし」


……でも、確かに言われてみれば私のお父さんはアドレイじゃなくて、アリーダさんの方がしっくりくる所がいくつがある。


お父さんに槍の才能はないけど、アリーダさんにはある。

最近知ったんだけど、私には魔眼が備わっている。

当然、お父さんには魔眼は無いけれど、アリーダさんにはあるんだとか?

そして何より……


『―――やっぱり、アリーナはあの人に似てるな』

『ええ。顔立ちと言い目と言い…あの人の特徴を受け継いでるわね』


……あれ?

私のお父さんってアリーダさんなの…?


何年か前に、半分くらい寝てる時にお父さんとお母さんの話し声が聞こえてきた。

その時は、眠かったのとまだ幼稚だったからまったく気にしてなかったけど……この言い草、まるで私がアリーダさんの子供みたいじゃん。


「……どうかしたか?」

「えっ?…な、なんでもない!」


……いや?まさかね?

多分、私の聞き間違えだよ。

寝ぼけてる上に、ずっと前のことだし。

聞き間違えて、そして記憶が曖昧になってるに違いない!


「おーい、そろそろ替わってくれ」

「はーい」


頭を振って脳裏に浮かんだ嫌な予感を払い、もうバテてしまった他の青級冒険者と交代した。








沢山の荷物を積んだリヤカーを引くこと数時間。

不自然に開けている場所に到着し、そこで基地を作ることになった。


「前はオークの群れだったか?」

「ああ。そん時は、俺らは雑用だったがな」

「そんな事もあったな!にしても、ここが残ってるとは……キャンプ地として使われてるのかね?」


なるほど…以前にも使ったことがあるのと、開けているからキャンプ地として使ってるのね?

それで、森が不自然に開けてるわけだ。

お父さんに教わった知識を活用してテキパキとテントを張っていると、ゲールさんがやって来た。


「流石は元橙級冒険者の娘だな。テントの張り方を教わっていたのか?」

「まあね!テント張りは冒険者の基本だもん!」


胸を張りながら、誰よりも早くテントを建てると、四苦八苦している青級冒険者の所へ行って、レクチャーしてあげる。

最初は子供に教えられていると複雑な表情をしていたけれど、すぐに真剣な顔になってしっかりと話を聞いてくれた。

それをこっそり盗み見て、ノロノロとテントを建てる他の冒険者。

お前ら…テントの張り方くらい覚えときなよ……


一応、全員の所を回りながらテントの準備を終えた私達は、既に班決めが終わっていたらしく、それぞれ荷物を持って先輩冒険者に付いていく。

目撃情報があったのはこのあたりで間違いないらしいけど、詳しい位置までは分からないのでこういった調査はとても大事だ。

道なき道―――と言うか、普通に森の中を歩き回るのは慣れている。

それは、他の冒険者も同じなようで、デコボコの森をスイスイと歩いていく。


私も余裕の表情で森を歩いていると、冒険者達が足を止めた。

そして、皆して私のことを睨むと――


「……おいガキ。ゲールのオッサンに随分と気に入られてるみたいだが……だからってあんまり調子に乗るなよ?」


――と、言って急に脅してきた。

なるほどねぇ…

余所者が、ギルドの偉いさんと仲良くしてるのは気に入らないと?

ゲールさんは、要職って訳じゃないだろうけど、ギルド内ではかなり地位が高いはず。

そんなゲールさんに気に入られるてるからと、調子に乗ってるように見えたかな?

“ゲールさんに気に入られて”調子に乗ってる訳じゃないけど……まあ、調子には乗ってるね。


「調子に乗るなってのは無理な話だね。少なくともアンタより強いし、才能もあるって自負してるから」

「……ああ!?なんだとゴルァ!」


挑発されて、私の胸ぐらを掴もうとする手を半分反って躱すと、すぐに両手で掴んで手首をへし折る。


「ぐああぁ!?」


掴もうとしたら、いきなり手首を折られた男は手首を抑えて後退る。

それを見て、その男の仲間も一歩後退る。


「単調な動きなら、カウンターで手首を折る事くらい出来るんだけど…所詮子供だから。ゴブリン討伐はお願いしますよ?先輩方」


ニコニコしながらそう言うと、冒険者達が一斉に私から距離を取った。

そして――


「……行くぞ」


気味悪そうに私を一瞥すると、再び歩き出した。


(これで黄級なんだよね…)


私の前を歩いている冒険者は、全員黄級。

それなりに冒険者として経験を積んだ人のはずなんだけど……ただの荒くれ者にしか見えないね。

きっと、特に何も考えず力だけで上がってきたんだろうね。

そんなだから、中々等級が上げられなくて、その歳で黄級なんだよ。


(この人、何歳なんだろう?普通に聞いても教えてくれないだろうし……あっ、こういう時こそ、解析の魔眼の出番では?)


私は、おばさんの魔眼である解析の魔眼をコピーしている。

それを使ってこの人の年齢を読み取ろう!

……まあ、今まで成功した試しがないけど…多分出来る!


根拠のない自信を胸に、私は解析の魔眼を使用する。

すると、目が熱くなり、様々な情報が流れ込んできた。


(ルド■ン…?名前かな?なんか文字化けしてる……で、年齢が#∆%歳…完全に分かんないね。種族・純人間(?)って……何このあやふやな解析結果!?)


おかしい…おばさんは、この魔眼でいろんな情報を得られるって言ってたのに。

え?これ、私の練度が足りないの?

それとも、ちゃんと成功しなかった?


あまりにも滅茶苦茶な情報に、私の頭の中は『?』でいっぱいになる。

解析の魔眼が、ここまで駄目な魔眼だとは思わなかった。

おばさんは当然のように使っていたけれど…アレは、何度も使い続ける事で魔眼自体の性能が上がっていたのかもしれない。

となると、これが実用的なレベルにまで使えるようになるのは、もっと先の話と…


(他人の力を自分の手足のように使えるようになるには、もっと時間が必要なのね……まあ、当然だけど)


所詮他人の力だ。

自分のものではない借り物。

そんな力を、一朝一夕で使いこなせるはずがない。

これから使えるようになるために努力しよう。

それに、今はゴブリンの巣の破壊に専念して―――ん?


「……なんか居るね」

「あん?」


結構強い…

魔力の量もそこらの野生動物とは桁違いだ。

ゴブリンの気配かな?


気配のする方へ歩いていくと、少しずつ探知で感じ取れる気配が増えてくる。

間違いない、ゴブリンの巣だ。


「こっちだよ。ゴブリンの巣は」

「はあ?何いってんだお前…」


どうやら、この人達にはゴブリンの気配を感じ取る能力はないらしい。

気配探知は重要な技術のはずなんだけどなぁ…


「ついて来てよ。こっちにゴブリンの巣があるから」

「はぁ…?」


自信満々に進んでいく私を見て、半信半疑に後に続く冒険者達。

背中に疑いの視線が何度も刺さってきて不快だけど、ここで怒るのは良くない。

それで信じてもらえなくなって、そっぽを向かれたら困る。


「……本当にこっちにあるのかよ?」

「あるとも。すぐに巣まで着くから、あんまり大きな声で喋らないでね?」


私の探知の範囲はそこまで広くない。

だから、そろそろ大きな声を出すのは控えてほしいんだけど…

この人達がそんなに素直に従ってくれるかどうか。


「俺に指図すんな。青級のくせに偉そうにしやがって」

「しっ!大きな声を出さないで」

「ああ!?ぶん殴られたいのかこのガキ!」


ヤバイ!

そんな大声を出すとは聞いてない!!


多分、この声はゴブリンに聞かれてると思ったほうがいい。

…実際、気配の動きがおかしい。

ここは一旦退くべきか…


「気付かれた!すぐにここから離れるよ!」

「うるせえ!俺に指図するなって言ってるだろうが!!」

「あーもう!今は言い合ってる場合じゃないんだって!!」


頑なに私の言うことを聞こうとしない男の手を引き、その場から離れようとするが、男は乱暴に手を振り払う。

そして、怒鳴ろうとしたその時――


「イタ!ニンゲン!!」

『!?』


ゴブリンが姿を表した。




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