第20話 こんな依頼もある

「討伐依頼の補助ってなに?」

「はい。3日後にゴブリンの巣を破壊する作戦があるのですが、その手伝いです。簡単に言えば、荷物持ち等の雑用ですね」

「ふ〜ん?」


青級の依頼が貼られた掲示板を眺め、何か良い依頼が無いか探していると変わった依頼書を見つけた。

その内容は『ゴブリン討伐の補助』で、適正等級が青級になっていた。


青級冒険者は討伐依頼を受けられないのに、これはどういう事だろうと受付嬢に聞いてみた。

受付嬢が言うには、3日後にあるゴブリンの巣破壊作戦の雑用なんだとか。

あくまで雑用なので魔物と戦う必要はなく、戦闘を強要された場合はギルドに報告することで、厳しい処罰を受けさせることも出来るそうだ。 

そんな依頼もあるんだなぁと思いつつ、どうしようかと顎に手を当てる。


等級の関係で受けられない討伐依頼。

しかし、コレを使えばこっそり討伐依頼に参加できる。

当然報酬は低いし、本来の仕事をほっぽりだす訳だから、バレたら不味い。

まあ、バレなければいいだけの話だ。

この依頼、受けるとしよう。


「じゃあ、コレ受けます」

「かしこまりました。では、3日後に指定の場所へ向かって下さい」

「は〜い」


依頼は3日後だ。

それまで、適当な依頼を受けて時間を潰そう。

はぁ〜…3日後が楽しみだなぁ…







いくつもの依頼を受け、時間を潰して迎えた当日。

指定の場所にやってくると、そこには何人もの冒険者が集まっていて、各々装備を固め、武器を持っている。


「あん?なんだこのガキ」

「ん?どっかで見覚えがある気がするんだが……まあ、青級のガキなんかいちいち覚えてねえな」

「さっさと帰れ。ここはお前みたいなのが来る場所じゃないんだよ」


むぅ…散々言ってくれるね。

にしても、私のことを薄っすらと覚えてる人が居るとは……私、まだ何もしてないんだけど?


「むぅ…私は依頼を受けてきた冒険者だもん」

「はあ?……ああ、荷物持ちか」


依頼を受けてきたと聞いて、本来達は私が何なのかを理解したらしい。


「あっちで仮拠点に着いたら、そこの物資を持って俺等に付いてこい。それがお前の仕事だ」


山のように積まれた物資を指さして、仕事を教えてくれる。

……案外優しいのかな?


「それと、コレを捨ててこい」

「は?」

「出発までに時間がある。その間にこれを捨ててこいよ、雑用係」


そう言って私の前にゴミを投げると、また仲間と話し始めた。

呆然としていると、色々な方向からゴミが飛んできて、私の周りにゴミが散乱する。


落ち着け私。

コレも依頼の一環だ。

雑用。その2文字で嫌な予感はしていたけど、やはりこんな仕事。

それでも、依頼として請け負った以上はやらないといけない。

そういう仕事なんだから。


怒りをぐっと堪え、散らばったゴミを回収する。

そして、走ってゴミ捨て場に行くと、ゴミを捨てて集合場に戻ってくる。

すると、既に出発の準備が始まっていて、私の他にも何人かの青級冒険者が慌ただしく荷物の準備をしていた。


「ん?なんでお前がここに居るんだ?」

「え?あっ、相談室のオッサン」

「ゲールと呼んでくれ。俺の名前だ」

「じゃあ私のことはアリーナって呼んで。アリーでも良いけど」


あのオッサン、ゲールって名前なのか。

というか、どうしてゲールさんがここに?


「どうしてゲールさんがここに居るの?仕事サボってるの?」

「ちげぇよ!これも俺の仕事なんだよ。お前こそどうしてここに居るんだ?」

「依頼を受けてきたんだよ。ほら」


ゲールさんに依頼書を見せると、ポケットから紙を取り出して何か確認している。


「確かに、お前の名前が書いてあるな。おっし、ならそれを積み込め」

「この木箱?何個入れるの?」

「全部だ」

「……え?」


ぜ、全部…?

見た感じ、30箱くらいあるよ?

ゴブリン討伐の依頼にしては多すぎない?


「発見されたゴブリンの巣がかなり大きなモノでな。数も多い。だから、長期戦を見越して食料を多めに持っていこうということになったんだ。まあ、余るだろうが足りなくなりよりはいい」

「はぁ…?」


にしても多すぎない?

冒険者ってこんなに食べるっけ?

……いや、雑用も含めるとそれなりの人数が居そうだね。


「重いから気を付けろよ。あと、他の雑用は忙しいから一人でやることになるだろうな」

「えぇ…」


出来なくはないけど……

はぁ…面倒くさい。

せめて二人でしようよ…その方が絶対に効率いいし。

いや、まあ他の人も忙しそうだから仕方ないんだけどさ?


「はぁ…これくらいなら、6つ同時にいけるかな?」


私は、3段に積み上げられた箱を2つまとめて持ち、それを近くにあったリヤカーに積む。

想像以上に重かったけど、運べないほどじゃない。

6箱同時に運べたから、これが30箱あると考えると……5回でいけるね。

これならすぐに終わりそうだ。


「なんだ、意外と楽勝だね」


すぐに終わる事が分かった私は、鼻歌を歌いながら木箱をリヤカーに積み込んだ。









(俺は…夢でも見てるのか?)


ゲールさんの部下として、ゴブリンの巣破壊作戦の監督となることになった、俺は、異様な力を持つ少女を見てそんな気分になった。

だってそうだろう?まだ成人してるかすら怪しい子供――それも女が、あの重い木箱を6つ同時に運んでいる。

13か14歳くらいの子供が出せる腕力じゃねえぞ…


「何ボケっとしてる。…なんだ?アイツのことが気になるのか?」

「ゲールさん……あの子供、何者何ですか?」

「さあな?自称、元橙級冒険者の娘出そうだ。橙級なら名前くらい分かるもんだが…まあ、勝手に知らないだろうと解釈して教えてくれなかったよ」


元橙級冒険者の娘…?

確かに、それならあの腕力も頷けるが……マジなのか?


「槍を使う橙級冒険者というと…もしかして、あの方の娘さんでしょうか?」

「あの方ってどいつだよ。槍使いの橙級は多いぞ?」

「『天三角』のアリーダ様ですよ。確か、12年ほど前にこの街を訪れられたでしょう?」


天三角てんざんかく

前衛のアリーダ。

後衛のメリア。

遊撃手のアドレイ。

その三人で構成された、橙級冒険者パーティーだ。

ただ、個としての強さも全員橙級で、なろうと思えば赤級冒険者パーティーになれただろう。


こいつが12歳だとしたら、ちょうど『天三角』がこの街を訪れた時期と重なる。

そして、『元』という字が付くのなら既に引退している可能性が高い。

どうして橙級冒険者が引退するのか?

子供が生まれ、子育てをする必要が出てきたからだ。

それなら納得がいく。


「アリーダの娘か…となると、母親は『天三角』の『四重魔術師』か」


四重魔術師クアッドメイジ

メリア様の二つ名。

世にも珍しい、四大元素全てに適正を持ち、下級・中級宮廷魔術師並の魔法を扱える天才。

風の噂では、宮廷魔術師に推薦された事もあるとかないとか…

肩書だけ聞けば、赤級になれそうなものだが…橙級らしい。


そんな天才魔術師メリア様と、アリーダ様の娘。

弱いはずがない。


「しかしなぁ……なんか引っ掛かるんだよな〜」

「何がですか?」

「気配だよ。アリーナの気配は、確かに半分は人間なんだが…もう半分が人間のじゃねぇ気がする」

「混血…ということですか?ですが、『天三角』の御三方は全員人間ですよ?」


あの御三方は全員人間だ。

混血のはずがない。

となると、『天三角』ではない可能性がある。

では、この少女は誰の子なのか?

……不思議な子供だことだ。


「…まあ、後で聞くとしよう。俺等も仕事に戻るぞ」


ちょうど木箱を積み終えた少女がこちらへ走ってくる。

そして、次の仕事を聞くとすぐに作業に取り掛かった。


俺も、仕事を再開するとしよう。

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