第17話 薬草採取依頼
青級の依頼を探して掲示板を見つめていると、受付嬢が沢山の依頼書を持って掲示板にやって来た。
「へえ?今って新規依頼を掲示する時間なんだ?」
一歩下がって受付嬢が依頼書を貼り終えるのを待っていると、わざとらしく一枚の依頼書がこっちに落ちてきた。
拾ってみると、青級の依頼書で内容は薬草採取。
『薬草採取
店の在庫が少なくなってきている。新しいポーションの作成のためにも、薬草を取ってきてほしい。
受け取り場所 月の薬屋
報酬 2000シル 』
……報酬少なくない?
たった2000シル?
薬草採取って、結構な量を取らないと依頼達成にならないから大変だ、ってお父さんが言ってたよ?
それなのに2000シルって…
あの連絡馬車の運賃が片道1000シルだから、隣町へ行って帰ってくるくらいの報酬。
うん、少ない。
「……でも、あの態度は間違いなく私に受けろって言ってるよね?」
一応、他の依頼がどんなモノか調べてみるか…
『下水道掃除
汚れた下水道の掃除をしてもらいたい。それなりに奥の掃除をしてもらうので、汚水スライムがいる可能性あり
報酬 2000シル 』
『ごみ収集
最近、スラム街付近にごみが溜まり始めている。行方不明騒ぎでスラム街に人が近付かなくなったせいで、清掃が行き届いていないのだ。荒くれ者や誘拐犯に注意
報酬 2500シル 』
『ウサギ退治
角ウサギが畑の作物や、森の薬草を食い荒らしている。早急に退治してほしい
場所 コーコ村周辺
報酬 2500シル 』
……ふぁっ!?
え?ぜ、全体的に報酬が安い。
ツヴァーイじゃ、白級でも下水道掃除で1500シル貰えてたよ?
それに対して、ここじゃ報酬が1000しか増えてない。
下水道の奥って言うあんまり掃除が行き届いていない場所で、かつ魔物がいる可能性ありってハードな条件で。
せめて3000シルはほしいんだけど?
まあごみ収集は妥当だかな?
人が近寄らなくいせいでごみが溜まってる上に、荒くれ者と今噂の誘拐犯がいる可能性あり。
そりゃ、倍額以上になるよね?
そうでもしないと、誰も依頼受けてくれないし。
で、角ウサギ駆除。
これに至ってはどうして青級にした?
魔物の討伐・駆除依頼は緑級からだよ?
やるとしても、緑級同伴とか複数パーティー専用とか。
青級の安全に配慮してほしい。
「劣悪だなぁ…」
そう呟きつつ、私は持っている薬草採取依頼の依頼書を受付嬢に持っていく。
すると、急に受付嬢が交代して、さっき掲示板に依頼書を貼っていた受付嬢が出てきた。
「薬草採取依頼ですね?では、こちらをご覧ください」
「え?あっはい…」
受付嬢は待っていました言わんばかりに話を進めると、何やら押し花――というか押し草を見せてきた。
「こちらがポーションに使われる薬草、キンチョ草です。こちらの薬草を根まで引き抜いて持ち帰って下さい」
「あっはい…」
「では、行ってらっしゃいませ」
一切の反論を許さず、口を挟ませる隙すら与えずに私は送り出された。
あまりの早業に、ギルドを出た後も呆然として思考がはっきりとしなかった。
でも、すぐに何が起こったかを理解して依頼書を見つめる。
「は、はめられた…」
仕方なく馬車から見えた薬草が生えていそうな森へと向い、依頼をこなすことにした。
森に来てからどれくらい経つだろう?
かなりの時間をかけて薬草を摘んだけど、量はそこまでない。
「これだけじゃ足りないよね…」
空間収納に入っている薬草の量は、手提げのかごに半分くらい入るような量。
そう聞くと結構な量を採れた気がしないでもないけど、これからこの薬草を乾燥させる。
それをすると、多くても三分の一くらいには縮むからかごの底に貯まるくらいしか無い。
「もっと集めないと……ん?」
薬草が無いか探しながら森を歩いていると、怪しい気配を放つ廃屋を見つけた。
何処となくレイスに似た気配を持ち、複数の穢れた気配を感じる。
これは…アンデッドか?
慎重に廃屋の中に入ると、中には拘束されたアンデッドがいた。
もちろん、一体だけじゃない。
「この狭い廃屋に10体も…そしてこれは…行方不明者?」
10体のアンデッドと、3つの死体が転がっている。
おそらく、死体はまだアンデッド化していない行方不明者の死体だろうね。
となると、このアンデッドも行方不明者か……可哀想だし、火葬してあげよう。
「まあ、その前にアンデッドの浄化だね」
私は拘束されている10体の動く死体に近付くと、
「『
浄化の魔法でアンデッドを解放する。
後は、残った死体を焼却処理すれば解決――ん?
「なんか…『浄化』の効きが悪い?」
まるで、何かに弾かれているかのように『浄化』の効きが悪い。
普通のアンデッドがこんなモノを持ってるとは思えないし…こんな所で拘束されてるのも変だし……やっぱり、死霊術師がいるね。
「私の使える聖属性魔法だと、魔法妨害を突破できない。なら、物理的に倒すしか無いよね」
別に、アンデッドは聖属性魔法じゃないと倒せない訳じゃない。
ただ、とんでもなくタフで全然怯まないアンデッドを物理攻撃で倒すのは大変だから、聖属性魔法で楽に倒しちゃおうって意味で、聖属性魔法が使われている。
まあ、聖属性が効かないなら炎で焼けば良いんだけどね?
アンデッドは火に弱いから、燃やしてしまえば楽に倒せる。
むしろ、扱える人が少ない神聖魔法や聖属性魔法よりも、火で倒す方が一般的なまである。
……私は炎魔法苦手だから聖属性で浄化するけど。
「私も炎魔法が使えたら楽なんだけどなぁ…」
そう呟きながらアンデッドの頭を叩き割っていく。
心臓を貫いても、首を切り落としても死なない事があるから、頭部を完全に破壊するのが良いらしい。
とりあえずアンデッドは倒せたけど…どうやって火葬しようか?
「油とか無いかなぁ……ん?なにこれ?」
よく燃えそうな油がないか物色していると、奥の棚の中からいくつかの書類と、気味の悪い宝石を見つけた。
書類は主人への報告書と、この宝石の使い方に関して書かれている。
「『死神の瞳』か…」
誰がこんな大層な名前をつけたか知らないけど、確かにそれに見合った効果がありそう。
「大量の瘴気を貯蓄し、一気に放出する。…そんな事されたら、大抵の生物は死に絶えて即アンデッド化するね」
この宝石を使って何をしようとしていたか知らないけど、間違いなく悪事を働こうとしている間違いないので、回収しておく。
そして、奥にあったランタンの油を使って廃屋ごと死体を焼却処理した。
森林火災…?
大丈夫大丈夫!森はそんなに簡単には燃えないから!
……多分。
「んー!いい仕事したな〜。これで街の人を守れたでしょ?………なんか、凄く大事な事を忘れてる気がするけど」
この街に何かしようとする不届き者の計画を粉砕した達成感と、何か大切なことを忘れているような気がする違和感を胸に、私は街に戻った。
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