第16話 ドーライの街

長い馬車の旅を経て、私は次なる街『ドーライ』にやって来た。 

冒険者のタグを見せて、身分を証明すると何やらピリピリした雰囲気を放つ門を抜ける。

市壁の内側にある街には、ツヴァーイ程の活気は無く、何やら雰囲気が暗い。


やたら警戒度が高い門に、暗い雰囲気の街。

厄介事のニオイがするぞ…


「ドーライはいつもこんな感じ?」

「いや……ここ最近、行方不明者が増えてるんだ。その影響だろうよ」

「ふ〜ん…?」


行方不明者、ねぇ?

ますます厄介事のニオイがしてきたよ。

断言しよう、この街には何かがある。

魔物か、犯罪集団か、貴族の裏工作か。

どれをとっても、余所者である私には関係のない(と思いたい)話だ。


だがしかし!

こういう問題に首を突っ込んで、華麗に解決してこそ未来の英雄!

冒険者ギルドにそれっぽい依頼がないか調べて、しれーっと事件に介入してやるもんね〜。


「なんか…良くないこと考えてるだろ?」

「良くないこととは失礼な!悪巧みって言ってほしいね!」

「余計に悪くなってるじゃねぇか!」


適当にコントをしつつ、馬車から顔を出してきょろきょろと怪しい人が居ないか探してみる。

しかし、何処にも怪しい人は居ない。

――何なら、私が1番怪しい。


「あんまり顔出すなよ嬢ちゃん。急に止まったら顔から落ちるぞ?」

「大丈夫だよ。しっかりと掴んでるから。落ちるときは馬車を破壊しながら落ちるし」

「ふざけんな!」


私と御者の掛け合いを見て、他の客がクスクス笑っている。

普通に大きな声で笑えばいいのに。

そうすれば、空気が明るくなってこの辛気臭さも紛れるでしょ?


「まあ、この馬車が相当古くなって無かったら、簡単には壊れたりしな―――ん?」

「…どうした嬢ちゃん?」


一瞬、路地裏の向こうで人が倒れるのが見えた。

ジーッと見つめていると、それは確かに人のもので、間違いなく人が倒れている。

すると、全身をローブで隠した怪しい人がその倒れている人に近付いてきて――


「ちょっ!あれ見て!!」


他の客を呼んで見てもらうと、ちょうど倒れていた人が連れて行かれた。


「…おいおい噂の誘拐犯か?」


いつの間にかこっちに来ていた御者が、頭を掻きながら面倒くさそうにそう言う。

あまり、関わりたくなさそうだ。

なら――


「コレ運賃!行ってきます!」

「おい嬢ちゃん!」


御者に運賃を渡し、路地裏に向かう。

後ろから制止の声が聞こえたが、無視して走り続ける。

魔力を使って強化した脚力をフルに使い、あっという間に路地裏を駆け抜ける。

そして、向こう側に辿り着くと、あたりを見回してさっきの怪しい奴を探す。


「居ない…?逃げられたかっ!?」


背中がゾワゾワして、私はその場から派手に逃げる。

すると、私が立っていた場所に吹き矢が飛んできて、そのまま通過していった。


「誰だ!」


空間収納から槍を取り出し、吹き矢が飛んできた方向を警戒する。

もちろん、他の方向も忘れない。

誘拐犯が一人なはずがない。

きっと、私が来ていることに気付いて迎撃体制を取っていたはず。

他にも狙っているやつがいてもおかしくは――そこか!?


「あっぶな!」


後ろから飛んできた吹き矢を躱し、そっちへ向かって走る。

すると、誘拐犯との距離が詰められ、なんとなくその位置が分かるようになった。

誘拐犯は一瞬たじろいだようだけど、すぐに逃げ出してしまう。


その速さは私よりもずっと速く、慣れた動きで足場の悪い路地裏を駆けていく。

一方の私は、森の足場の悪さには慣れているものの、この人工的な足場の悪さには慣れていない。

何度も足を引っ掛け、転けそうになる度に減速し、誘拐犯との差が開く。

やがて、視界からも探知領域内からも外れてしまい、完全に見失ってしまった。


「逃げられた…」


仕方なく撤収し、来た道を戻っていると途中であるモノが目に写った。


「吹き矢か…一応、回収しておこう」


何かの証拠になるかも知れない。

特に、紋章とかマークはついてないけど…吹き矢が使われたって証明にはなるでしょ?

これが理由で事件が解決に向かったら尚良し!


吹き矢を空間収納に入れると、スッとその場を立ち去る。

そして、巡回中の警備隊に道案内をしてもらいながらギルドへ向かった。









「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご要件でしょうか?」

「誘拐犯を見つけた。逃げられちゃったけど、アイツ等が使ってた吹き矢を拾ってきたよ」

「ほ、本当ですか!?しょ、少々お待ち下さい!」


受付嬢に誘拐犯の話をすると、すごい勢いで奥へ引っ込んでいった。 

そして、戻ってくるなり奥の相談室に連れて行かれた。


「君が、誘拐犯を見たという女の子だね?」

「はい。追いかけはしたんですけど…逃げられちゃいました」

「なんだって!?何か、奴等の特徴を覚えていないか!?」


追いかけていたという言葉を口にした瞬間、凄まじい勢いで食いついてくるおっさん。

若干引き気味に見た感じの誘拐犯の特徴を伝えると、腕を組んで唸り始めた。


「やはりそう簡単に特徴を掴ませてはくれんか……」

「この吹き矢は証拠になりそうですか?」

「…難しいな。コレ言った特徴な無いせいで証拠にするには難し――まて?今どこからコレを取り出した?」


空間収納から吹き矢を取り出したのを見たおっさんは、思い出したかのように目を丸くしている。

冒険者が空間収納の魔法を使えても変じゃないと思うんだけど…


「どこって…空間収納だけど?」

「く、空間収納…?お前…何者だ?」

「え?」


おっさんは顔色を変え、私のことを疑いの目で見始めた。 

へ?なんで?

空間収納なんて、ベテランの冒険者ならみんな使えるよね?

そんなに珍しいモノでもないと思うんだけど…


「冒険者タグの情報によれば、お前は12歳だったな?」

「うん。私は12歳だよ?」

「……年齢詐称はよせ。12歳のガキが空間収納を使えるわけがないだろう?」

「ほ、ホントに12歳だもん!」


た、確かに12歳の子供が空間収納を使えるのはおかしい。

余程高名な魔術師の子供か、余程高名な魔術師の弟子でも無ければあり得ない。


「リーヴィア!『紅蓮の薬師』リーヴィア!聞いたこと無い?」

「……誰だそりゃ?お前の師匠の名前か?」

「そうだよ!もと魔法学園の教師、『紅蓮の薬師』リーヴィア。ホントに聞いたこと無いの?」


魔法学園の教師とまで言ってみたけど、おっさんは誰のことか分からないらしい。

首を傾げながら必死に思い出そうとしている。


「誰のことか分からんが…まあ、高名な魔術師様の弟子だって事は分かった。あんまり見せびらかすんじゃないぞ?空間収納なんて、その等級で使える魔法じゃないんだからな」

「覚えておきます…」


魔法が使え過ぎると、変な誤解を生むって事が分かった。

今度からは、あんまり見せびらかさないようにしよう。


……いや、等級が上がれば使えてもおかしくないんじゃない?

だって、子供な上に等級が青だよ?

少し早く研修が終わった子供的な扱いを受けても変じゃない。

でも、もし私が黄級とかのもっと上の等級だったら?

『神童だ!』って讃えられて、空間収納を使えてもおかしくない。

うんうん!それなら誰にも文句言われないでしょ?


「よし!依頼を受けよう!」

「ど、どうした?藪から棒に?」


急にそんな事を言い出したものだから、目をパチクリさせるおっさん。


「おっさんに変な目で見られたから、誤解されないために等級をあげようと思って」

「うん、等級を上げる前にまずはその言い方をどうにかしようか?」


おっさんは、何故かまったく笑っていない笑顔で私の肩に手を置いてきた。

……なぜ?


「とりあえず、ちゃんと報告はしたし行かせてもらうね〜」

「あ、おい!せめて変な目ってのを訂正しろや!」


おっさんが何か言ってたけど、多分私には関係ない。

それよりも、速く依頼だ依頼!

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