第11話 門番のお仕事

「……」

「……」

「……」

「……」


……会話が無い。

まあ、ずーっと一緒にいると話題も尽きるモノだけど…無言が辛い。

でも、隣りにいる門番さんは普通にケロッとしてるんだよなぁ…

やっぱり、この仕事に慣れてるんだろうなぁ…


あの後、結局オッサンに押し切られた私は門番の依頼を受けることになった。

おばさんにもその事を説明し、しばらく魔法の練習は出来ないことを伝えておいた。

すると、おばさんはすごく残念そうにして私の事を撫で始める。

そして――『アイツは昔から我を通す事が多い。残念だけど、諦めな』――と言ってオッサンに呆れていた。


そんな紆余曲折を経て、私は今ここで門番をしている訳何だけど…


「……」

「……」


やっぱり会話が無い。

二人だけの状況で会話が無いってかなり苦しい。

この人みたいに何も考えずぼーっととしてられたら良いんだけど…生憎、私はまだ12歳。

やる気に満ち溢れていて、元気いっぱいな私にはこの時間は苦痛でしか無い。


(くっそー、二度とあのオッサンが持ってきた依頼は受けない!)


この、なんの意味があるのか分からない時間を無駄に消費したくなかった私は、ひたすらオッサンを貶した。心の中で。

時には椅子に縛られて身動きが取れないオッサンをボッコボコする妄想もした。

……ただ、それも飽きた。

あっという間に飽きてしまった。

だから、結局ストレスを溜めながら何も出来ない時間を過す。

何か起こることを願いながら…










……さっきから、隣のガキが殺気立ってて気が散る。

時々こちらに視線を向けては溜息をつくガキ。

領主様が冒険者ギルドに出した依頼を受けて門番をしに来たそうなんだが…まさか、12のガキが来るとは思わなかった。

事前に隊長から相手はガキだと聞いていたが……何で俺がこんなガキのお守りをしないといけないんだよ。


(絶対ガキのお守りをしたくないから押し付けやがったな?あいつ等…)


理由は分からないが、急遽俺が門番をすることになった時点で薄々感づいてはいたが…やはり押し付けられた。

隊長も止めなかったあたり、やっぱりみんなガキのお守りは嫌なんだろう。


始めは村や家族の話、どうしてここに来たのかを聞いて会話があったから良かったが…会話が無くなるとやはりガキ。

退屈になって、でも依頼だから離れるわけにもいかなくてイライラし始めた。

隣で分かりやすくイライラされると、こちらもストレスが溜まる。

これだからガキは…


「…あんまり気張り過ぎるなよ?適度に脱力しとけ」

「……はい」


イライラして気を張っているのを指摘したら、より一層イライラし始めた。

…気持ちは分からなくもないぞ?

気分が悪い時に指摘されたら腹立つもんな?

だから、俺は何も言わない。


「しかし、領主様はどうして冒険者なんかに依頼を出したんだろうな?」

「人では足りてるんだよね?……最近、きな臭い話なかった?」

「そうだな……領主様が所属してる派閥と仲の悪い派閥の貴族様が、何かしようとしてるって噂は聞いたことがあるな」


まあ、今のところ何もされてないから、ただの噂だろう。

どうせ、話が広がる途中で尾ひれがついただけだ。

嫌がらせをするにしても、こんな辺境よりも儲かってる国境の街はあるだろうに。


「嫌がらせか…その派閥に、黒い噂は?」

「黒い噂?……そうだな。沢山魔術師を抱え込んでる貴族が居てな。その魔術師の中には死霊術師が居て、敵対してる貴族の領内でアンデッドを発生させてるって噂を聞いたことがあるな」


まあ、自然を装って他人に嫌がらせをするのは良くあることだ。

アンデッドなんて、どこにでも発生しうる魔物を使えば、特に怪しまれたりはしないだろう。


「死霊術師…」

「ああ。アンデッドなんかを操るから、街では生きづらいだろうな」

「アンデッドを操る、か…」


死霊術師の話をしたら、ガキは顎に手を当てて何か考え始めやがった。

最近、死霊術師関連で何かあったか?

……そう言えば、街の近くの森にレイスが複数体出たって話を聞いたよ――


「ッ!?しゃがんでッ!!!」

「は?何言ってんだおま―――」


そういい切る前に、突然俺の視界が反転しやがった。

…意味が分からん。

誰かに足元を掬われたか?

だとしたら、敵しゅ―――は?


揺れ動く視界の端に見えたのは、首のない誰かの体。

そして、なにかを警戒するように槍を構えるガキの姿だった。


(あのガキ……チッ、これだからガキのお守りは嫌いなんだよ……)


領主邸を襲撃するとして、大人の門番と子供の門番が居たらどっちを先に始末するか?

そんなの、大人の方に決まってるだろうが。

はぁ…これだからガキは……


そこまで考えて急に視界が暗転し、俺の意識は闇に落ちた。










門番のオッサンがやられた!

こういう時は確か―――


「コレだッ!!」


オッサンの死体から笛を回収し、襲撃者を警戒しながら咥える。

そして、全力で息を吹いて甲高い笛の音を鳴らした。


この笛は、敵襲を知らせる笛だ。

すぐにでも警備隊が駆け付けてくる。

それまでにッ!?


「くっ!?」


殺気を感じ、その方向へ警戒心を強めているとクナイが飛んできた。

散らばり方からして、私には防げない。

脚に魔力を集中させて後ろに飛ぶと、飛んできたクナイ回避する。

その時、背後から僅かな足音が聞こえ、そちらに意識を向ける。

そして――


「シイッ!!」

「ほう?」


私の攻撃を易易と回避した襲撃者は、獲物を構えながら攻撃的な視線を向けてくる。

体に纏う魔力の量を増やし、体の出力を上げる。

コイツは…間違いなく私よりも強い。


油断なく構えていると、襲撃者は懐に手を入れた。

またクナイか何かを飛ばしてくる気だろう。


「させない!」

「フッ…甘いな」


一気に前に出て槍を突き出すが、襲撃者はヒラリと後ろに飛んで回避する。

さらに、飛びながら懐から取り出したとても小さな刃を投げてくる。

攻撃姿勢を取っていた事もあって、私はその刃を避ける事ができず、体に刺さってくる。


(こういう暗器には大体毒が塗られてる。早く解毒しないと不味い!)


生憎、解毒のポーションは持っていない。

警備隊の人に貰うか、おばさんの店まで行って解毒してもらわないと…


「はあっ!!」

「当たらんな」


全身を使って槍を振るも、襲撃者は易易と躱し、私の懐に潜り込んでくる。

その手にはさっき門番さんを殺すのに使った、あの鋭利なナイフが握られている。


(青みがかった刀身…ミスリルのナイフか!)


どうりで切れ味が良いはずだ!

これで切られたら不味い!

なんとか躱そうとするも、襲撃者はそれを読んでいたかのような動きで迫ってくる。

そして、そのナイフが私の腹に突き刺さった。


(これが…最後のチャンス!!)


私は、ナイフが刺さった瞬間後ろに飛ぶ。

そして、襲撃者はナイフを振り上げて私の腹を切り裂いた。


「ぐうっ!!」

「チッ…浅いな」


確かに腹は切られたが、直前で後ろに飛ぶことでいくらか刃を腹から離す事に成功した。

そのおかげで、そこまで深く斬られることは無く、ぎりぎり重傷で済んだ。


(致命傷は避けた…でも、次はない)


内臓まで刃は届かなかったものの、腹筋をバッサリいかれた。

それに、痛みで体に力が入らない。

額からは嫌な汗が流れてくるし…魔力の流れも乱れてる。


「先に殺すべきはお前だったな。やはり、人は見かけによらない」

「あっそ…」


魔力を出血を抑えるために腹に集中させ、ジリジリと後退りする。

私の手に負える相手じゃない。

警備隊に任せないと…


「逃がすと思うか?お前は警備隊が来れば勝てると思っているようだが…果たしてそれまで持つかな?」

「チッ!」


襲撃者は洗練された素早い動きで私との距離を詰めてくる。

ここで焦って迎撃すれば、相手の思うつぼ。

ギリギリまで引き付けて、迎え撃つ。


襲撃者が、一歩、また一歩と近付いてくる。

異様にゆっくりに見える世界の中で、私はタイミングを見計らう。

そして――


(ここだッ!!)


槍を短く持って突き出すと、全身全霊の突きを襲撃者に向けて放った。

しかし――


「フッ…やはり甘い」


襲撃者は突きを回避すると、ナイフを突き出してくる。

その表情には余裕と油断が感じられ、明らかに私のことを舐め腐っている。

その油断が、命取りとも気付かずに…


「やああぁっ!!」

「ぐふっ!?」


腹を切り裂く為に姿勢を低くした襲撃者の腹に、全力の蹴りを突き刺す。

相手はガキだと完全に油断しきっていた襲撃者は、その蹴りをモロに食らい、苦しそうにしている。

その隙に後ろに飛んで、領主邸の敷地内に入ると警備隊の隊長さんが駆け寄ってきた。


「大丈夫か!?」

「それよりも襲撃者を!!」


私は忌々しそうにコチラを睨む襲撃者を指差し、隊長さんに追撃をお願いする。

――が、警備隊が到着して不利を悟った襲撃者はすぐに踵を返し、闇夜に溶け込んで逃げてしまった。


「チッ、逃げ足が速い野郎だ…そんな事より、大丈夫か!?」

「大丈夫…ギリギリ重傷で済んだ」

「それは大丈夫とは言わねえよ!!」


隊長さんは私を抱き上げると、周囲の警戒を部下に任せ、私を何処かへ連れて行く。

その最中に、私の意識は闇に落ち、その後何が起こったのかは分からなかった。

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