第8話 レイス

「なるほど…確かに、これは『レイス』の念がこもっているな」

「なんとか証拠になるものを見つけられて良かったわ。それで……ギルドとしては、どう動くつもりかしら?」

「個体数調査からだな。不確かな情報だけで動くのは危険極まる」

「そう…」


おばさんは普通に話しているが、相手はそう簡単に話せる相手じゃない。


ここは、冒険者ギルドの3階、支部長室だ。

ならば、この目の前にいるオッサンは支部長という訳で…

普通は、こうやって雑談でもするかのような話し方はしちゃいけない。


ただ、おばさんがこの部屋に入ってきた時、オッサンは目上の人を相手にするかのような態度で出迎えてくれた。

もしかしなくても、おばさんってすごい人?


「どうかしら?必要なら手を貸してあげても良いんだけど…?」

「いや…それには及ばない。我々だけでなんとかしてみせよう」

「そう…なら、早めに解決してちょうだい。薬草採取に行けなくなるから」


おばさんが手を貸すかぁ…確かに、それならすぐに解決しそう。

だって、おばさん強いし。

あの化け物――『レイス』って言うんだっけ?

あれってどんな魔物なんだろう?


「…おばさん、レイスってどんな魔物?」

「ん?そうね…レイスは実体を持たない――まあ、霊体で活動するアンデッドの一種ね。恨みとか怒りとか…そういう負の感情を一際強く持って死んだ人の魂がアンデッド化したものね」

「強い負の感情から生まれるアンデッドってこと?」

「大体そんな感じね」


ふ〜ん?

にしてはだいぶ強かったような気がする…

強いアンデッドって、廃墓地とか戦場跡に発生するモノだと思うんだけど…


「この辺りって、昔戦場だったの?」

「いや?この辺りが戦場だったのは――もう300年くらい昔じゃないかしら?」

「じゃあ、あのレイスは300年前からいるの?」


そうじゃなきゃ、あんなのが生まれた理由が分からない。

だって、この辺りには廃墓地は無いし、戦争も300年も前の話でしょ?

発生する要因が、その300年前の戦争くらいしかない気がする。


しかし、おばさんはそれをキッパリと否定する。


「それはないわね。戦場跡として発生するアンデッドは大半がとっくの昔に浄化されているわ。それに、300年以上活動するアンデッドであれば、もっと強くなってるはずよ」

「そうなんだ…確かに、300年前から居たら何かしら目撃情報があるよね」


…じゃあどうしてレイスは生まれたの?

強い負の感情から生まれるアンデッドなら…誰かが志半ばで死んだとか?


「誰かが志半ばで死んだのかな?」

「それもありえないわね。確かにレイスは強い負の感情から生まれるアンデッドではあるけれど、個人の負の感情なんてたかが知れてるもの」

「どれだけ恨みが強くても、個人の負の感情じゃレイスは生まれないの?」

「そうね。恨み辛みが強過ぎて、気が狂っちゃうくらいじゃないと、個人の負の感情でレイスが生まれることはまず無いわ」


レイスが生まれる条件って厳しいんだなぁ…

でも、確かに結構強そうなアンデッドだったし、それくらいしないとレイスは生まれないか。


レイスの強さを思い出し、『うんうん』と頷いていると、おばさんが私の肩を掴む。


「いいアリーナ?間違っても一人でレイスを倒しに行こうとしちゃ駄目よ?」

「い、行かないよ!流石に…」

「約束よ?レイスは討伐難度『黄』の強力な魔物なんだから」


討伐難度というのは、どの等級の冒険者であればその魔物を倒せるかという指標である。

討伐難度『黄』ということは、黄級冒険者クラスの実力が無いと討伐は難しいということになる。


「ツヴァーイの街の近くでも難度が『黄』の魔物っているんだね?」

「本来なら居ないはずなんだが…まあ、何処かから流れてきたんだろう」


支部長が腕を組んで背もたれにもたれかかり、溜息をついている。

やっぱり、この件は厄介な話なんだね。


「とりあえず、レイスの対応はこちらでしょう。情報提供感謝する」

「よろしくね?まあ、あまりにも遅いようなら私が動くけど」


そう言って、おばさんは立ち上がると私の腕を引いてギルドを出た。


……レイスかぁ。

土魔法で倒せるかな?

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