第7話 森での戦い
おばさんに連れられて街の近くの森にやって来た私は、お父さんに教えてもらった薬草の見分け方をフル活用して、薬草採取をしていた。
「あら、よく取れたわね」
「おばさんも手伝ってよ…」
「老人にそんな力仕事させるんじゃないよ。腰を痛める」
老人って…
別に、おばさん大して老けてないじゃん。
まだ40代に見えるよ?
まあ、エルフの血が混じってるから実年齢がどれくらいか知らないけど…
「おばさん魔法使いでしょ?魔法で薬草採取してよ」
「そんな都合のいい魔法はないわ。それに、魔法で薬草採取なんてしたら、精密作業のし過ぎで倒れちゃう」
「じゃあ普通にしゃがんで採取してよ。回復魔法使えるでしょ?腰を痛めても大丈夫だって」
どうせ、腰痛なんて回復魔法を使えばなんとかなる。
お母さんがよく村のみんなに回復魔法をかけてあげてたし。
「もう、仕方ないわね」
おばさんは溜息をつきながらしゃがむと、私なんかよりもずっと手早く薬草を摘んでいく。
その手腕はまさに熟練の技。
慣れた手付きで次々と薬草をカゴの中へ入れていく。
「……絶対おばさんがやったほうが早いじゃん」
「ふふっ、新人にはこういう仕事をさせるものよ。冒険者になるための勉強だと思いなさい」
「冒険者の勉強ならいっぱいしてきたもん」
私のお父さんとお母さんは冒険者だよ?
大切な事はちゃんと教わってるし、一般常識も身に着けてる。
それに…
「私は天才なの!こんな事しなくてもすぐに立派な冒険者に―――どうしたの?」
突然、おばさんが険しい表情で遠くを見つめる。
私もおばさんが見ている方をよーく見てみるが、何も居ない。
ただ、何かの気配は感じられた。
凄く大きな、何かの気配は……
「何が居る」
「シッ!静かにしなさい!」
「むぐっ!?」
おばさんが私の口を手で覆い、体を抱き寄せる。
まるで…何かから庇うように。
本当は嫌だけど、こういう時はじっとした方が良いってお母さんも言ってたし、得に暴れずにじっとしている。
すると――
(なにあれ!?)
さっきからずっと見ていた方向から、目も鼻も口もない人型の化け物が音もなく移動してくる。
しかも、化け物は冷気を放っているのか周囲の温度が下がり始めた。
おばさんはさらに表情を険しくし、化け物を睨みつけている。
そして――
「『
化け物の周りに炎の棘を突出現させ、化け物を全方位から攻撃する。
炎の棘は私の『
しかし、
「ホオオォ……」
化け物は高速で迫りくる炎の棘を飛び上がる事で回避し、避けきってみせた。
そして、それまで何もなかった顔に突然口が現れ、中が青白く輝く。
「耳を塞ぎなさい!」
おばさんが警告に従い耳を塞ぐ。
しかし、おばさんは耳を塞ごうとしない。
私を抱きかかえるので両手が塞がり、耳をふさげ無いのだ。
(おばさん!)
叫びたいけど、口に手を当てられているせいで叫べない。
そして、化け物が一瞬上を向いた後、私達の方を向いて思いっきり叫ぶ。
音と共に口から青白い光が放たれ、私とおばさんに襲いかかった。
「―――――」
耳を塞いでいたおかげで何もなかったが、おばさんはそうもいかない。
心配になっておばさんの方を見ると――
(あれ?意外と大丈夫そう?)
おばさんは耳を塞いでいないにも関わらず、涼しそうに叫び攻撃を流している。
しかも、何かの魔法まで構築している。
余裕だね、おばさん。
一瞬手を話そうかと思ったけれど、耳を塞げって忠告したって事は、この叫び聞いたら不味いはず。
仕方なく化け物の叫び声が止まるまで待っていると――おばさんが魔法を発動した。
「――――!!」
耳を塞いでいるからなんて言っているのか分からないけど、多分炎魔法の槍系だ。
おばさんが放った炎魔法は槍のような形をしていて、一直線に化け物へ向かって飛んでいく。
そして、叫び攻撃をしていたせいで身動きが取れなかった化け物の顔面に炎の槍が突き刺さる。
化け物の顔に突き刺さった炎の槍は爆発し、激しく燃え上がる。
その瞬間、おばさんは私を離すと3つの魔法を同時に構築しながら化け物に向かって走る。
「周囲に気を付けなさい!正気を失った魔物が襲いかかってくるわ!!」
耳から手を離した直後、おばさんがそう叫ぶ。
正気を失った魔物…
なんとなく、何が襲いかかってくるか想像出来る。
だから、私は槍を地面に突き立てた状態で魔法の構築を始めた。
この魔法は発動までに非常に時間が掛かる。
そして、大量の魔力を消費する上に維持もできない。
だから、一発勝負。
あのすばしっこいアイツ等の事だ。
すぐに襲いかかってくるだろうと予想して急ぎで魔法を完成させる。
そして……
「「「「グガゲギギッ!!」」」」
正気を失い、目の焦点が合っていないゴゴク達が四方八方から一斉に私に襲いかかってくる。
それをぎりぎりまで引き付けると――
「『針山』!!」
全方位に石の棘を生やし、一気に大量のゴゴクを串刺しにする。
私の周囲に放射状に伸びる石の棘を生やし、近くにいるモノ全員にダメージを与える魔法だ。
その威力は結構あって、太い木の幹を貫通するほど強力である。
そして、生み出された棘は石でてきているので簡単には破壊できない。
そんなツヨツヨ魔法の『針山』だけど、一つ致命的な欠点がある。
それは――
「セイッ!」
私では魔法を3秒程度しか維持出来ないので、すぐに消えてしまう事だ。
だから、消えると同時に槍を突き出して一匹でも多く早めに倒す必要がある。
突き出された私の槍は確実にゴゴクの首に向いていて、その首の骨を一撃で破壊する。
その一撃で即死させると、すぐに槍を横に振って、横に居たゴゴクの頭蓋骨を粉砕した。
魔力で強化された私の腕力なら、小型の魔物であるゴゴクの頭蓋骨を粉砕するなど容易。
頭蓋骨が砕け散る確かな感触を手で感じた後、私は直ぐ側まで走り寄ってきていたゴゴクを蹴り飛ばす。
そして、槍の何処かがゴゴクに当たるように調整しながら一回転すると、見事に5匹のゴ ゴクを弾き飛ばした。
……それでも、ゴゴクはまだまだ居る。
「くうっ!」
倒し損ねたゴゴクが、次々と襲いかかってきて、私の体をひっかく。
大した傷にはならないけど、無駄に鋭いから普通に痛い。
しかし、ここで痛みに怯んで隙を見せると大変なことになる。
歯を食いしばって槍を振り、確実に頭か首を狙う。
正気を失った生物は、確実に急所をついて殺さないと中々止まらないから、頭か首を狙う必要がある。
一匹ずつ殺していき、少しずつ数を減らす。
体に飛びついてきたゴゴクは振りほどいて地面に叩きつけ、槍で頭を破壊するか、足で首を圧し折る。
そんな事を何度も繰り返し、全身傷だらけになった頃にようやく全てのゴゴクを倒し終えた。
「はぁ…はぁ…おばさんは…?」
あたりを見回しても、おばさんの姿は見当たらない。
ただ、ここから少し離れた所におばさんの魔力がある。
多分、あそこに居るんだろう。
私は痛みを堪えておばさんのいる方へ向う。
歩く度にひっかかれた傷が痛むけど、おばさんの所まで行けば回復魔法で治してもらえるはず。
……流石に回復魔法を使えるよね?
おばさんが回復魔法を使えるか心配しながら歩いていると、背筋が凍るような悪寒に襲われた。
「ヒュー……ヒュー……」
何故か息が詰まり、上手く呼吸できない。
それに、全身から鳥肌が立っている。
これは…悪寒だけじゃない……物理的に冷えてる。
悪寒と物理的な寒さでその場から動けないでいると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ホオオォ……」
さっきの化け物の声…今、アイツはおばさんと戦ってるんじゃないの?
もしかして…おばさんが負けた?
い、いやいや!そんなバカな…
確かにあの化け物はかなり強そうだったけど、おばさん程じゃなかった。
負けるとは思えない。
きっと勝ってる。
じゃあ、コイツは?
考えられる可能性としては…
「別個体…?」
ツヴァーイの街周辺には強力な魔物は生息していなかったはず。
なのに、こんなに強い魔物が2体も居るなんて…
化け物は、冷たい息を吐きながら私に近付いてくる。
私の方へ化け物が向かってきているというのに、まるで体が動かない。
全身を氷漬けにされたかのような…とにかく、体がピクリとも動かない。
「ホオオォ……」
化け物が迫ってくる。
されども体は一切動かない。
そして、私の目の前に来た化け物が口を大きく開けて頭に齧り付こうとしたその時――
「『
おばさんが放った魔法が横から化け物に衝突し、そのまま化け物を私から引き剥がす。
そして、少し離れたところで爆発し――
「『
追い打ちの聖属性魔法によって大ダメージを食らった化け物は、森の奥へ逃げていった。
「大丈夫だった!?」
おばさんが私に駆け寄ってきて、回復魔法を発動する。
やっぱり使えたんだね、回復魔法。
これが使えると、旅先で怪我をした時に役立つから是非とも覚えたい。
このおばさんの弟子になって、教えてもらうのもありかも…
「このくらいの傷ならすぐに治るわね。良かった、近くにゴゴクしかいなくて」
「うん。ゴゴク以外が出てきたら不味かったよ。……あの化け物みたいに」
結局あの化け物は何なんだろう?
聖属性魔法が有効って事は、アンデッド系の魔物かな…?
でも、アンデッド系の魔物にしてはこんな真っ昼間から出てきた。
あの魔物は一体…
「よし、とりあえず傷は治せたわ。今は一度ギルドに戻って報告ね。厄介な魔物が出てきたものだわ…」
「え?もう帰るの?」
「他にもいたら面倒でしょ?それに、貴女がいる状態じゃ満足に戦えないもの」
……それもそっか。
私は天才だけど、最強じゃない。
まだまだこれから強くなるんだ。
それまではただの足手まとい、他の人の邪魔をしちゃいけないんだ。
「せっかくだしウチにおいで。お昼ごはんを食べさせてあげるわ」
「いいの!?」
「遠慮しなくていいわ。さ、帰りましょう」
おばさんは私が放ったらかしにしていた薬草が入ったカゴを拾うと、私の手を引いて街へ向かって歩き出した。
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