第5話 魔眼使いの薬師

「ここか…『薬楽屋』って薬屋は」


地図を頼りに『薬楽屋』へとやって来た私は、店の前で立ち止まる。

古臭い外装に、古臭い看板。

中から大きな魔力の気配と、いくつもの小さな魔力の気配を感じ取り、嫌な予感がしたからだ。


(……こういう店って、堅物の爺さんか婆さんが居る事が多いんだよなぁ。あの受付嬢、私がここを選ぶように、わざとあの3つを勧めたな?)


こういう店は、冒険者とトラブルになって誰も来たがらない事が多い。

店主が冒険者と合わないせいですぐに問題が起こり、その噂が広がって誰も依頼を受けないんだよね。

でも、ギルドとしてはこういう依頼はさっさと終わらせてしまいたい。

だから、私みたいな無知なヤツにやらせて、なんとかしてる。


「村長、貴方の言ってた事は正しかったよ…」


本当に恐ろしいのは人間。

あんな美人さんが、こんな小さな子供を騙すんだから、人間は恐ろしい。

そんな事を考えていると、薬屋の扉が開いて中から、いかにも堅物そうなおばさんが出てきた。


「ウチの店になにか用かい?」

「ギルドの依頼を受けてきたアリーナだよ。『薬楽屋』さんはここだよね?」

「そうだね。それを早く言ってくれ、随分待たされたんだから」


おばさんは私を強引に店の奥へ引っ張っていくと、沢山の薬品が入った籠を渡してきた。


「なんの薬かのラベルは貼ってある。棚に並べてきてくれ」

「は、はい…」


籠を受け取ると、すぐに店に行かされた。

一つ一つ、割らないように丁寧に並べていると、変な感覚が私を襲った。


(……なに?この、気持ち悪い視線)


不快だとか、気持ち悪いとかじゃない。

単純に気分が悪くなる視線。

何故か足に力が入らなくなり、思わず倒れそうになる。


しかし、倒れそうになる前に謎の頭痛を感じ、なんとか意識がハッキリとした。


「うっ!?」


頭痛とともに頭の中に何かの知識が流れ込んできた。

それは、相手の意識を奪うモノで、しかも特殊な方法で発動する。

これが何なのか、お母さんから教えてもらった事がある。


「魔眼…?」


『魔眼』

他者を視線だけで攻撃できる、生まれついて体に備わっている能力。

後天的に発動する事はなく、人工的でなければ基本的に持って生まれた者しか使えない代物。

有名なのは、バジリスクという魔物が持つ石化の魔眼だね。

あんな感じのモノが、世界にはいくつもあるらしい。


どうやら、私はその魔眼で攻撃されていたようだ。

一体誰に?

魔眼は相手を見ていないと効果がない。

つまりは―――


「驚いた…まさか、そんな魔眼があるとはね」 


店の奥からおばさんが出てきて、私の顔に触れてくる。

そして、私の目をまじまじと見て観察しているようだ。


この人だ。

この人が私に魔眼を使ってきたんだ。

私なんかに意識を奪う魔眼を使って、いったい何がしたかったんだろう?


「お嬢ちゃん、自分の才能に気が付いているかしら?」

「才能?…私は天才だって事は自覚してるよ?」

「それじゃないわ。魔眼の才能についてよ」


魔眼の才能?

私、魔眼が使えるの?


「その様子だと気付いて無さそうね。貴女、凄く珍しい魔眼が使えるのよ?」

「珍しい魔眼?」

「ええ。私の持ってる『意識を奪う魔眼』と『解析の魔眼』とは比べ物にならないくらい凄くて、珍しい魔眼」


解析の魔眼?

そんなのも持ってるんだ、このおばさんっ!?


またさっきと同じような頭痛に襲われた私は、頭を抑えて痛みを堪える。

痛みを堪えていると、頭の中に解析の魔眼に関する情報が流れ込んできて、その使い方までも分かった。


「ほう?これがそうなのね?」


おばさんは苦しむ私を見て、興味深そうに顎に手を当てながら顔を覗き込んでくる。

その様子が無性に腹立たしくて、思わず殴りたくなったが……多分、このおばさんは私よりも強いので、そんな事はしない。


やがて痛みが収まり、頭を抑えなくても良くなった私はおばさんに質問する。


「私が持ってる魔眼って何なの?」


多分、この頭痛は魔眼によるものだろう。

じゃあ、いったい私の魔眼って何?


「貴女の魔眼は――『魔眼を模倣する魔眼』よ」

「魔眼を…モホウ?」


模倣ってなに?

どういう事?


「……模倣ってなんですか?」

「簡単に言えば、真似をするって事ね。要は、『他者の魔眼を使えるようになる魔眼』って事ね」


他人の魔眼を使える…

それってかなり凄い事じゃないの?


「見たところ、貴女の実力次第では模倣出来る魔眼に制限は無いみたいだし……実質、全ての魔眼を使えるということでもあるわね」


す、全ての魔眼を使える…?

私が見たことのある魔眼に限られるけど、強くなればどんな魔眼でも使えるって事だよね?

それって、凄いどころの話じゃないよ…


……でもさぁ――


「…でも、魔眼が使える人って相当珍しいよね?」


そもそも、魔眼が使える人自体が珍しい。

だから、この広い世界で魔眼持ちを見つけて、その人が魔眼を使ってる所を見ないと、この『魔眼を模倣する魔眼』も意味がないよね?

そう考えると、確かに凄い魔眼であるんだけど、大した事ない用に感じる…


「冒険者ならそれくらい探しなさいよ。大体、天空島に行けば魔眼なんていくらでも見つけられるわ」

「天空島?」


何その島?

名前からして、空にありそうな島だけど…そんな島があるの?


「天空島は空に浮かぶ島で、主に『天人』という種族が住んでいるわ」

「天人!聞いたことあるよ?優等種族気取りのクソ野郎何でしょ?」

「間違ってはいないけど…誰から聞いたの?」

「お父さんとお母さん」


私がそう言うと、おばさんは分かりやすく顔を歪めた。

コレは…お父さんとお母さんに対する不信感?


「……貴女の親は、一体どいう教育をしているの?」

「どうって…普通だけど?」


でも、色々な所を旅した分、村の誰よりもお父さんとお母さんは賢い。

――って事は、そんなお父さんとお母さんに勉強を教えてもらった私って、実は凄く賢い!?


「おそらく――というか確実に貴女の親はちゃんとした教育をしていないわね。そもそも、娘が一人で冒険者をやってるのを止めない時点で、たかが知れてるか…」

「そんなことないよ!お父さんとお母さんは色んな所を旅して学んできたから、村の誰よりも賢いんだよ!」

「旅?…貴女の親は、冒険者なの?」

「そうだけど?」


旅の話をすると、おばさんは何かに気付いたのかお父さんとお母さんが冒険者かどうか聞いてきた。

だから、それに『そうだ』と答えると頭を抱えて深い溜息をついた。


「両親が冒険者なら、こんな子が産まれてもおかしくはないわね…」


おばさんは何故か残念なものを見るような目で私を見ると、私の頭を撫でてきた。

……なぜ?





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