EP.1 FD

「それでは、各お部屋にご案内致します」


 NAZY管理下の特別研究所・FORWARDのホールにて、召集された5人の精鋭たちは、スタッフの後ろをついて歩き出した。


「ねえねえ、ここなんなの?私どうなるの?」

「先ほど説明された通りです。皆さんには、FORWARDの一員としてここで実務を行っていただきます」


 きょろきょろと周りを見ながら歩く木神に、スタッフは淡々と答えてみせた。


「あーあ。せっかくお昼食べてたのにさ、いきなり先生から呼び出されて。『今からここに迎ってくれ』って。急すぎだっつーの!」


 声を張り上げて文句を言う木神に、横目で傾聴するスタッフと困った表情で見つめるほか4人の精鋭。どう考えても一人だけ浮いていた。

 そんな木神をなだめるように、精鋭の中の一人が声をかける。


「木神さん……でしたっけ。あなたの秘めた力はすごいとお聞きしました。きっとここでもその力は約に立つはずです」


 すると木神は目を見開いて、声をかけられた一人に言う。


「えっ、なにその秘めた力って!なんか主人公感すごいじゃん……その力ってなにさ!」

「い、いや……僕に聞かれても。ただ、ここに来る時、司令室の前を通った時に聞こえてきましたよ。木神礼霞は逸材だ、って」

「えー!それすごいじゃんっ!テンションあがる~」


 どうやら木神は5人の精鋭の中でも一目置かれる存在らしい。しかし、自身がそれを把握していない。スタッフは横目で見ながらも困惑していた。一体、彼女のどこが抜擢されたのか、と。

 そんなことをつらつらと話しているうちに、木神の部屋の前に着いた。


「木神さん。あなたのお部屋はこちらです。それと、こちらを」


 そう言って木神がスタッフから手渡されたのは、ルームキーとスマートフォンだ。


「スマホなら私持ってるけど?」

「そちらは仕事用のスマートフォンです。後ほどメールが届きますので、ご確認をお願いします」

「はぁい」


 そうして木神は部屋に入る。

 部屋は十分な広さだった。ベッドにテレビ、観葉植物や空気清浄機までついている。


「あ、そうそう。お風呂はどうなってるかな~?」


 木神はバスルームを確認する。こちらも十分な広さだ。


「うは~めっちゃ広いじゃん!テンションあがる~」


 ある程度部屋を確認したところで、先ほど手渡されたスマートフォンの通知音が鳴る。


「あ、きたきた」


 木神はスマートフォンを確認する。そこには【訓練生の皆様へ】という件名で本文が送られてきていた。


「えーっと……『身支度が整いましたら、2Fの訓練室まで来てください。※木神さんのみ部屋で待機していてください』って……え?」


 そしてスマートフォンを机に置いたその瞬間に、ドアがノックされた。


「ふぇっ!?」


 ドアを開けると、先ほどのスタッフが立っていた。


「あ、さっきの人。もう少しお部屋でゆっくりさせてよ~」

「申し訳ありませんが木神さん、司令がお呼びです」

「え、しれー?」


 スタッフの後ろをついて歩いてたどり着いたのは、FORWARDの司令部だ。様々なコンピュータ機器が並んでおり、中央には巨大なスクリーン。そして視線を落とすと中央に座る人物が見える。


「司令。木神さんをお連れしました」


 司令と呼ばれたのは、いかにも若い女性だった。きりっとした目尻と、その小顔を包むように伸びるロングヘアー。制服の胸元には多くのバッジがつけられている。


「ミスター青木、ご苦労様。あなたが木神さんね?」

「え、あ、はい。私が木神ですけど」

「初めまして。私はNAZY日本支部の日南零ひなみれい。今年からこのFORWARDの本部長として配属されたわ。よろしくね」


 手を差し伸べる日南。木神は「ふぇ?」などと困惑しながらも握手を交わした。


「さて、本題だけども。なにか聞きたいことがあるようね?」


 日南が木神の顔色を窺うように尋ねる。

 すると木神は食いつくように日南に質問をぶつける。


「もうほんと、いっぱいあるわ。そもそも何で私はここに呼ばれたわけ?」


 堂々と司令席の机に手をのせる木神に驚きながらも、目をつむった日南は再度目を開けて口を開く。


「いいわ、あなたになら教えても。隠していてもいずれ分かること」


 そして日南が話し始めた。

 話が終わると、木神は目を見開いて驚いていた。口をぱくぱくしながら、声にならない声を出していた。

 日南が話した内容はこうだ。

 木神の記憶は一部消されている状態であること。その記憶とは、木神は召集される前に、一度電脳世界に足を踏み入れていること。そしてその電脳世界で、あるテストを行い、正式に木神をFORWARDの一員として迎え入れることになったこと。そして、木神には特殊な能力が備わっていること。

 木神は話を聞いてあることを思い出した。


「そういえばさっき、5人の中の一人に言われたわ。『あなたの秘めた力はすごい』って」


 それは、部屋に向かう途中での会話の内容だった。

 日南はまっすぐ木神の目を見て言う。


「ええ。あなたの力はテスト後から話題になっていた。あなた以外のほか4人は、記憶を消していないから、そのことを知っていたのよ」

「そんな……私だけ記憶消されてるとかかわいそう」


 冗談でも冗談に聞こえないセリフをぶつぶつと呟く木神に、日南は改めて姿勢を正した。


「木神礼霞。本日よりあなたを正式にFDとして採用します」

「えっ、なに?えふでぃー?」


 何回も見てきた困惑する顔に日南は笑みを浮かべながら言う。


「FORWARDer《フォワーダー》のことよ。略してFDと私たちは呼んでいる。よろしくね、木神さん」

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