第15話
すんなり部屋を出たマナを見て、ユリは驚いていた。
こっそりレオにどうやったの? と聞いていたが、レオも正直に分からないと応えており、マナの心が持ち直した理由は分からずじまいである。
日を改めてから、レオとレオの一家、マナとユリで倒れた少年のお家へ謝罪に向かった。
彼の両親は、むしろ恐縮した様子で謝ってきたが、彼に大きな非があるとは思えないレオだった。
あれ以来、ガキ大将をしていた彼の様子は変わってしまったらしい。
なんだか、急に大人びて、家でも友達とも穏やかそうに話していたとか。
それでも、今はレオ達には会いたくないとの事で、こればっかりは機会を待とうということになった。
穏やかに月日が経ち、レオは7歳を迎えた。
「レオ、今日は狩りに行く」
「えっ、いいの!?」
いずれ、アストの狩りについて行く日が来ると聞いて楽しみにしていたレオは、ついにその日が来たとはしゃぐ。
その様子を見たエレナは苦笑していた。
確かに昨晩、アストと話してそろそろレオを連れて狩りに行ってもいいだろうとはなったけど、翌日なのね? と呆れているのである。
レオよりこのときを楽しみにしてたのは、アストなのだ。
その証拠にーー。
「これがレオのだ」
レオ用の狩猟道具が1セットでてきた。
いつの間に用意したの……と思うエレナ。
獣や道具に関してゆっくりと説明し、狩りに出る夕方まで過ごすのだった。
人族以外の動物といえば、大きく2種類に分けられる。
獣か、魔物か。
明確な違いといえば、魔物には魔石という核が存在する。
どちらも魔法を扱うが、より凶暴かつ凶悪なのは魔物だ。
今回の狩りは、獣を狙う。
夕方になると、アストとレオは村の外れ、森の手前までやってくる。
そこには何人かの大人と、1人のレオより年上の少年がいた。
初陣ですね、なんて村の大人達はアストに話しかけている。
「お前、今日怖い思いするぞ」
少年がレオに真面目な顔で言ってのけた。
今日の狩り楽しみにしていたレオは、少し水を差された気分になる。
「こら、ギム」
そういって、少年……ギムに拳骨を落とす男性。
「すいやせん、レオの坊ちゃん。馬鹿息子が」
「……ううん」
レオはその男性が何度かアストと話すのを見たことがあった。
気のいい人だと思っていたが、その息子は何だか嫌な感じ。
そんなことを思ってると、各自準備を済ませて、いよいよ薄暗くなってきた森に入るのだった。
その間も、ギムはレオをちらちら見て、その視線に気づいていたレオはあえて、そちらを見ないようにした。
森を歩く人数は3人3組。
アスト、ギムの父、ギムの3人組について行く形で、レオは薄い暗闇を歩いていた。
足音や気配は、度が過ぎなければあまり気をつけなくていいそうだ。
なんでも、3組が歩くルートによって、活動的な動物の動きを誘導しているそうだ。
それだけを宛にせず、道中で罠を仕掛けたりして決められたルートを辿る。
そうやって立ち止まる度、静寂の森では小さな音も鋭敏に聞き取れた。
……がさっ。
「っ」
急に後ろの草むらが鳴り、レオは息を詰めたように振り返る。
何もいない……?
どんどん暗くなっていく森の中で、レオは少しずつ平静が乱れていった。
獣が魔法を使うようなら、レオはその鋭敏な魔力感知で気づけるが、物理的な接近には自力で警戒しなければならないと知る。
「ギザル、ギム、左右に仕掛けよう」
アストがそう言うと、ギムとギムの父が簡易的な罠を持ってそれぞれの方向へ散っていく。
その罠は、長い紐だった。
逃げる獣の足を絡めとるための物だそうだ。
仕掛けに嵌ると、付属してる鈴がなるらしい。
黒い紐が目の前でピンと張られたのを確認して、レオはふと顔を上げた。
「……え?」
そこには暗闇があった。
さっきまで淡い灯りを持っていたアストが居ない。
左右に散っていったギムとその父も戻ってこない。
きょろきょろと左右を見渡しても、暗闇や木々の遮蔽が相まって視界が悪い。
かさかさ。
夜の森の音だ。風に煽られる葉の音。
遠くで聞こえる、獣や虫の鳴き声。
ーーいつも隣にあった環境音が、嫌に不気味だった。
からんからん!!!
とても近くで、鈴の音が鳴る。
罠に獣が掛かった音だ。
そちらにいけば、きっとアストがいる。
そう思って暗闇の中、レオは足元が見えないにも関わらず駆けた。
「ひっ!?」
背の高い薮を掻き分けた目の前に、狼の口があった。
前足に紐が絡まり満足に動けないながらも、グルグルと唸りながら狼はレオを見ている。
ズズと地を擦る音をたてながら、狼はレオに近づいてきた。
ーー立って距離を取らないと噛まれる。
そこで、ブチッという音と共に、狼は倒れた。
狼の後ろには、短剣を狼の首に突き立てたギムの姿。
「……な? 怖い思いするって言ったろ?」
レオは言葉も発せない。
震える体を自覚すると共に、ギムの後ろには少し開けた場所があることに気づいた。
そこには8人の人影がある。
皆合流してたんだ。
「洗礼っていうんだぜ」
首を力ずくで両断し、逆さにして掲げるギムはそう言う。
「俺も2年前は怖い思いをしたんだ」
ここでレオは察する。
声をかけてきたのは意地悪ではなく警告で、ちらちら視線を向けていたのは心配してくれていたのだと。
そうと分かるとレオは、快活に笑うギムを見て格好いいなと思うほどには、悪印象は無くなっていた。
「た、立てない」
「掴みな」
そう言って差し出されたギムの手を、レオは取る。
2人の友情が生まれた瞬間だった。
「うわ……」
「あ、わり」
ギムの手が血にまみれていなければ、輝かしいワンシーンであっただろう。
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