第14話

 ある日、私が絵本を読んでいる時、お父さんのお友達のアストさんがお家にやってきた。

 何度もお仕事のお話をしにくるアストさんは知っていたけど、アストさんが連れている男の子は初めて。

 お父さんに挨拶している男の子は、レオと名乗った。

 アストさんと同じ黒い髪と黒い目。

 でも、アストさんと違って表情は柔らかいんだなって思った。

 レオが私の顔を見ると、ふわなんて声を出して固まっちゃう。

 まるで絵本の勇者様がお姫様を見た時みたい。

 お父さんに、お母さんと私が紹介された。

 私も何か言わないと。

 名前は知っていて欲しいかも。あと、絵本が好き。

 レオは、私と友達になりに来たんだって。

 絵本でも、勇者様が一目惚れして、告白して、お姫様とお友達になってた。

 こういう事かな?




 私と友達になりに来たレオは、私じゃなくお父さんの難しい本ばかり眺めてる。

 私も絵本を読んでる。

 おそろい。これがお友達。

 魔法についてお父さんとレオが話している。

 まるで私が魔法に興味が無いってお父さんはいうけれど、無いわけじゃない。

 教えてくれないのはお父さんじゃないの。

 お話を聞いてると、レオが覚えた魔法を私に教えてくれるらしい。

 ちょっと楽しみ。

 レオ、本は大事にして。ぎゅっとしちゃだめ。




 次にレオがお家に来たのは、私がその約束を忘れそうになった頃。

 自分の魔力って分かる? って聞かれた。

 分からないよ。

 色々言われても、分からない。

 すると、急に手を握られた。

 ……お父さんとお母さん以外に触られることは無かったけど、意外とびっくりしない。

 レオが手を握ったまま目をつむって、なんだかうんうん唸ってる。

 するとーー


 ぞくっとした。


 何かが手のひらから体の中に入って、動いた……?

 それと同時に色んな声が聞こえた。


(こうすればどうかな)

(上手く教えれるかな)

(マナちゃん、魔法は楽しいよ)

(僕はちょっと大変だったけど)

(あれ、マナちゃんびっくりしてる?)

(魔力入れるのだめだったかな)

(大丈夫?)


 多分、私を思うレオの心。

 すごい、魔法ってこんなことできるんだ。

 絵本にも書いてない。

 面白い……!




 今日はお祭り。

 これまでレオとは、いっぱい会って、いっぱい魔法を使った。何日も何日も。

 私が絵本の魔法を言うと、レオがうんうん唸りながら魔法を使う。

 私はそれがすごく楽しかった。

 その魔法を私がレオに教わりながら使うと、レオはそうやって魔力を動かせばよかったんだ! って楽しそうに笑う。

 すると、うんうん唸らないで、レオは魔法を使えるようになるの。

 そんなレオの様子も面白い。

 私は多分、お母さんとお父さんの次にレオが好き。

 ……お父さんは全然帰ってこないから、お父さんよりレオの方が好き。

 絵本は1番好き。

 お祭りもちょっと好き。

 きらきらしてて、わいわいしててーー

 急に大きな男の子が、声をかけてきた。

 その男の子の後ろにも何人か男の子がいて、なんだが騒がしい。

 ちょっと怖い。

 レオが私の前にでる。

 お姫様を守る勇者様みたいに。

 なら、これは、危ない場面?

 そう思っていると、レオが押されて転んでしまう。

 私を守るようにあったレオの腕に引っ張られて、私も転んじゃう。

 怖い。

 男の子が近づいて、手を伸ばしてくる。

 怖い。

 怖いーー


「いやっ」


 ……。

 目を開けると、周りは真っ白。

 レオは大丈夫みたい。

 よかった。

 そう思ってたのに、レオは私を慌てて見てから……男の子に走っていってしまった。

 なんで?

 勇者様は、お姫様から離れたことない。

 2人は一緒だから。

 私とレオは……?

 ふと周りをみると、皆私の事を見てる。

 見てるだけ。

 なのにすごく、冷たく感じた。

 ーーこれも魔法なのかな。

 なんだか、息ができない。

 地面も分からない。

 レオ。レオ……。


 気づいたら、レオが私の背中をさする。

 ゆっくり息をして欲しいんだって。

 いいよ。

 皆の目の魔法が解けたみたい。

 もう一度周りを見ると、皆はーーレオを見てる。さっきの目で。

 レオにもその魔法をかけるの……やめて。

 悲しくて、涙が出た。




 レオがその後すぐにお家に来てくれた。

 私は泣くと目が赤くなるんだけど、レオもそうなの? 目が真っ赤。

 何が1番怖かった? って聞かれた。

 レオは魔法が怖かったって。

 私も皆の息が出来なくなる魔法は嫌だった。

 一緒に魔法うまくなろうって約束した。

 うーん、私が1番怖かったのは……。

 きっと最初に思い浮かぶこれ。


「……レオが私に背中を向けたのが1番怖かった」


 レオが私から離れていったこと。

 あの離れていく背中がすぐ思い起こせるほど焼き付いている。


「いや、違うんだよ? あれはーー」


 なんだか、あわててレオが話してる。

 私にとらうま? が残らないようにとか、なんだか色々話してるけど、たまにある難しい言葉が気になってよく分からない。

 あの魔法使ってよ。


「……私の中に、魔力入れて」

「えっ? そ、それでどうなるの?」

「……」

「わ、分かった」


 ぞくり。

 レオは戸惑ってるけど、私の手を握って魔法を使ってくれる。

 私がどうしても覚えれない、レオだけの魔法。

 なんだか、ぞくぞくするけど。

 この魔法はーー


(ど、どういう事?)

(これをするとどうなるの?)

(でも、なんだかマナちゃん元気になったみたい)

(これからも一緒に魔法の練習できる)

(トラウマになってないといいな)

(しばらくマナちゃんの事よく見ておかないと)

(今度はちゃんと守ってみせるね)


 レオが私のことでいっぱいなのが分かるから。

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