第5話

 魔法書の初めには、神聖魔法である明かりを灯す魔法が記されていた。

 だが、エレナの裁量でとある項目からレオは学び始める。


 身体強化魔法。


 魔法とは体内の魔力をもって、外界の魔力を巻き込み、意志を持って具現化させる。

 初歩であり、汎用性があり、危険性も少なく、ありふれた神聖魔法から学ぶのが基礎であると、魔法を学ぶ者として一般的な考えだが、エレナとアストは違った考えを持っていた。

 『体内の魔力をもって』。この部分こそが基礎なのだ。

 この身体強化魔法。体内の魔力を、循環や佩帯など様々な操作をして、身体能力を高める魔法である。

 簡単に想像できるような力が強くなる作用や、免疫機能の強化まで多岐に渡る効果があるのだ。

 レオは地べたに座り、エレナに見守られながら自身の体内へと意識を向ける。

 まずは自身の体内にある魔力を感じ取るところが第一歩だ。この点に関しては、レオがこの世に生を受けて記憶のある時から自覚しているため、突破。

 実の所、この第一歩を突破できずに挫折する人は多い。というか、挫折の理由はほぼ全てこれである。

 実情とは異なるが、前世でいえば、血流を意識してくださいといわれているようなもので、あって当たり前のものを自覚するのは難しい。

 レオが生まれながらにして魔力を自覚しているのは、前世との差異が大きいのかもしれない。

 次に大きな壁は、魔法という現象の個人差である。

 具体例を挙げれば、エレナの身体強化魔法は、体内の魔力を皮下に纏うように発動する。アストは、体内の魔力を練り上げるように発動する。

 魔力は扱う者の意志によって魔法となるため、厳密にいえば扱い方もその効果も何一つ同じ点はない。

 つまり既存の魔法であっても、習得すなわち発明であるのだ。


 その例外が神聖魔法なのだが、この話は別の機会に。


 では、そんな個人の自由の権化たる魔法を、どう他人に教えるのかと疑問が残る。

 その答えは単純で、こういう魔法があるんだよ。こうすれば使えるんだよ。という情報は、人にとって不可能という発想の除去にあたる。

 意志を汲み取る魔力を扱うに当たって、『出来ない』という考えが一片でもあれば、多大に影響するのだ。

 これこそが、魔法の習得における原点である。


「レオは、どうすれば身体が強くなると思う?」

「……走る?」

「そうねぇ。走って休めば、今度はもっと長く早く走れるものね。うーん……パパみたいに、魔力をぐるぐる回してみる?」

「ぐるぐる」


 レオは体内の魔力をぐるぐると動かそうするが……。


「うまく動かない」

「そうねぇ」


 レオは、自身の魔力を上手く動かせないでいた。

 魔法の習得において、この点でつまずく者は、少なくともエレナとアストは聞いたことがなかった。

 体に例えると、手指の動かし方が分からないようなものだ。

 つまり、教え方が分からない。

 レオは前世に無かったものが有るため直ぐ認識できたが、その無かったものを動かすイメージが上手くいかない。それがこの現象の原因であった。

 まるで霧や雲を掴めないように、魔力を上手く動かせない。

 むむむ、と気合を入れるあまり、眉間に皺が寄るレオを見て、アストのように強面にならないか少し不安になるエレナだった。

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