第19話

「ま、雅人……」


「おーっす。何やってんの二人で」


 どうやら彼の様子からしてさっきの祖野沢とのいざこざは見られていないようだった。

 俺は内心で安堵の息を吐いた。


「今から部室に行こうとしてたんだよ」


「あ、そうだったのか。だったら俺も一緒に行くー」


「……ちっ」


 なんか横から舌打ちが聞こえた気がするのだが……気にしないようにしよう。


「っ!?な、なんか悪寒を感じた」


「どうした雅人。お前らしくもない」


「……怖いな」


 実はその悪寒の正体──というかその悪寒の出どころは今俺の隣にいる美人のせいだと言うことを俺だけは知っているのだが……わざわざ彼にそれを言う必要はないだろう。

 というか言ったら殺されるだろう。


「さて、そろそろここで立ち話をしてても無駄な時間を食うだけだし、行こうぜ」


「そうだな」


「うん」


 ということで三人で部室へと向かい始めた。




「おや?」


 部室に着いて、一番前を歩いていた雅人が部室のドアのロックを開けようとした時、既に開いていた。その事に少しだけ驚いている雅人を他所に、俺と祖野沢はさっさと中に入る。


「誰もいない……?」


「いや、荷物が置いてある……ってことは誰かがトイレに行ってるってことかな。このバックは……西宮くんかな」


「西宮かー。お、噂をすれば」


 ガチャリ、と後ろからドアが開く音がした。そこにはさっき名前が挙がった西宮薫にしみやかおるがいた。


 西宮薫。俺たちの一つ下の学年で、俺たちの後輩にあたる。

 一応男子ではあるのだが、何故か男子人気が凄まじいのだとか。


 まぁ、見た目がどちらかというと男子よりも女子に見えるのが原因なのだが……。前に彼にそう言っても嘘だと笑われてしまったので、彼自身それを信じていないようだ。


「あ、先輩方。こんにちは。昼ご飯を食べに来たんですか?」


「ああ。俺たちはな。西宮は?」


「僕はゲームをしに来てたんですよ。あ、折角だし少しやりませんか?」


「俺はいいぞ」


「おい勢登。次授業あるじゃねえか。やってもいいのか?」


「あ……やっべ。悪いな、西宮」


 そう言えば次の授業ってもうサボれないんだった。もう俺は一度でもサボると期末試験の受験資格が無くなってしまい、そうなると俺はその授業の単位が取れないことが確定してしまう。


 それだけは避けなくてはならない。


「いえいえ、次授業があるのでしたら仕方ありませんね。ええ、仕方ありませんとも」


「何だそのわざとらしい言い草は」


「いえいえ。ただ、今日こそ先輩に勝てるかなぁって、思っただけです」


「俺に勝てるだぁ?はっ、笑わせんな。雅人を三タテしてから言うんだな」


 きっと西宮が勝てると豪語したゲームはスラビラだろう。

 なんと言ってもこのゲームにおいて、俺はこのサークルの中で一番強い……らしいからな。


 正直俺よりも強い奴はいっぱいいると思うけどなぁ。特に四年生の先輩とか、院に通ってる先輩とか。


 その先輩たちと戦えばいいのに。


「どうして先輩たちを誘わないんだ?」


「だって先輩方中々来ないじゃないですか。特に四年の先輩方は」


「そりゃそうだけどさ。兎に角、まずは雅人を三タテしてから。話はそれからだ」


「了解しました!!半羽先輩、やりましょう!!」


「えー……それよりも俺は勢登に文句を言いたいのだが」


「雅人、お前が弱いのが悪い」

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