第18話

「……んで、なんであの時あんな暴挙にでたんだ?」


「暴挙?いやいや、あれは暴挙とは呼ばないよ。あれは、そうだね……言うのなら、牽制、かな」


「牽制?」


「そ。これ以上ライバルを増やしたくないからね。知ってるかい?君のことを少なからず想っているのは何も私と白戸さんだけじゃないんだよ?」


「は?んな馬鹿な」


「実際、その効果はあったようだし。悔し顔がちらほらあったしね」


「……」


 祖野沢のその言葉に俺は何とも言えない表情になった。

 その話が本当だったら俺、結構嬉しいのだが……。


「それよりも、だ。呼び方だよ。苗字に直してくれないか?」


「やだね。私はこのまま勢登って呼び続けるよ。それに、そう呼んだ方が効果てきめんだし──ほら、赤くなった」


「う、うるさい」


 実際名前で呼ばれるとなんか恥ずかしく感じてしまう。これもやっぱり今まで祖野沢が俺のことを苗字で呼んでいたからだろうか。


 俺は考えるのを止めた。


 一先ず昼飯を買うために大学内にあるコンビニへと向かう。


「勢登はいつものやつを買うの?」


「ん?ああ。まぁ次も授業あるしエナドリは買わないけど」


「おや、珍しいね。いつもだったら買うのに」


「俺、いつも次の時間に授業があったらエナドリはなるべく飲まないようにしてるんだよ」


「へぇ……なんか意外だね。眠くなるから飲むとかそう言うと思ってたのに」


「俺授業中に眠くなったことないからエナドリなくても別に平気なんだよ」


「え、そうなの?それは凄いね」


 昔から俺は授業中に眠くなることが一度もない。だから一度でいいから授業中に寝てみたいと言うちょっとした願望がある。


 なので今の俺の手にエナドリは無い。


 今あるのはいつものコンビニによく売ってるハンバーガーとコーラだ。


「ジャンク」


「うっせ」


 横から祖野沢が文句を言ってきた。

 これの何が悪いってんだ。


「体、悪くなるよ?」


「え?」


「え、何その“こんなので体が悪くなるわけないじゃん”って顔。エナドリ飲みすぎなだけで前から心配だったのに、更に自分を追い込んでどうすんのさ!?」


「追い込むて。そんな深刻になるもんじゃないだろ」


 確かに俺の食生活はかなりやばいことは分かっている。まぁそれも白戸さんが俺の家に住み始めてから改善されてはいる。

 いるのだが、やはり昼ご飯まで面倒を見てもらうのは申し訳ない。


 そういうことだから昼ご飯だけは自分で用意しているのだ。


 俺はハンバーガーとコーラの二つを買い、祖野沢は俺のジャンクさに反して健康さ重視のサラダとおにぎり二つを買った。


「んじゃ部室に行こっか」


「あー……そうだな」


 今なら雅人がいるかもしれないし。


「えいっ」


「っっっ!!!???」


 と、その時だった。


 彼女が俺の腕に自分の腕を絡ませてきたのだ。


「お、おい祖野沢……!?急に何やってんだ!?ちょっと離れ──」


「いいじゃないかこれくらい。ちょっとは我慢してほしいな。器が大きいことを私に示してくれ」


「……いや、我慢しろったって」


 結構無理難題な気がする。

 ただでさえ美人で豊満な肉体をお持ちな彼女だ、そんな彼女が俺の腕を自分の体に押し付けようもんならそれはそれはもう……はい。


「と、とにかく!今すぐ俺から離れてくれ!」


 俺は何とかして彼女を俺の腕からひっぺはがした。


 あ、危なかった。


 これが誰かに見られたらと思うと──


「あ」


「え」


 俺の視界の端に、雅人がいた。


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