第17話

「おはよ~」


「お、おう祖野沢か」


 俺の歯切れの悪い受け答えに疑問を持ったのか、頭を可愛らしくコテンと傾けた祖野沢。いつもかっこいい感じの彼女が見せるこのギャップに一体何人もの男子女子を堕とせるのだろうか。

 現に近くにいた女子の頬が少しだけ赤く染まっていたのを横目で見た。


 いつもだったら何も感じなかったがやはり告白されるとこうも感じ方が変わってくるのか。


「どうしたんだい?早く行かないと遅れるよ?」


「お、おう。何でもない」


 俺は先を歩き始めた彼女に置いて行かれないように、少し速足で彼女に追いついた。


「そう言えば、白戸さんとは仲直り……?で、いいのかな?をしたのかい?」


「あ、ああ。つい昨日な。話はしたよ」


「ふぅん……」


 すると祖野沢の表情が少しだけ困った感じの表情に変わった。でもそこに滲み出ている嬉しさみたいなものを感じた。


「まぁ、あれは私のせいでもあったし、すぐに解決してよかったよ」


「そ、そうか……」


 ま、まぁ確かに白戸さんの様子がおかしくなったのは祖野沢が俺に告白してからだった。

 今ならなんでおかしくなったのか分かるのだが。


「ま、そういう訳だから、もう心配しなくても大丈夫だぞ」


「うん……」


 そして俺たちは授業のある教室へと辿り着くと、俺は雅人を探しに、祖野沢はいつもの女子メンバーが固まっているところへと向かった。


「あ、そうだ勢登」


「ん?」


「今日ってサークル行くのかい?」


「あー……多分行く──おい待て。お前今なんつった」


「何でもないよ。それじゃあまた後でね?勢登」


「……」


 こいつ。教室に入って早々やらかしやがった。

 いや、俺がこいつに何も言わなかったのが悪いのだが、平気で人前で俺のことを名前で呼ぶこいつもこいつだ。

 まずい、完全に忘れてた。


 案の定、教室内が荒れ始めていた。それも祖野沢が俺のことを名前で呼んでいたからだろう。


「まさか……あの二人って付き合い始めたのか……!?」


「ま、まさかな……そんなこと、ないよな?」


 ほら見ろ。めんどくさいことになりやがった。


 俺は急に刺さり始めた視線を無視して既に席を確保していた雅人の元へと向かう。

 その時、雅人がいる方からなにか猛烈に嫌な視線を感じたのでそちらの方を向くと、予想していた通り、雅人がニヤニヤしながら俺の方を見ていた。


 正直周りの反応よりもこっちの方がめんどくさかった。


「おうおう勢登さんや。朝からいい御身分ですねぇ」


「うるせぇ。俺だっていきなりだったんだから戸惑ってるし、何ならめんどくさいとすら思ってるんだからよ」


「そう言って内心嬉しいんじゃないの?自分が特別なんだーって幻想抱けて」


「それよりもこの後めんどくさいことになりそうだなって今にもちびりそうになるくらい恐怖でいっぱいだよ」


「ふぅん……」


「だからそのニヤニヤを止めろ」


 毎度毎度こいつは何かと俺にとって嫌なことがあればそれを敏感に感知してすぐにこうやって煽ってくる。

 今すぐにでもぶち殺してやりたい。


 と、俺が拳を握りしめ始めたときだった。


「ん?」


 何やら携帯が震えたので俺は一旦雅人を無視してから携帯を開く。

 すると、何やら新着メールが入っていたので俺はそれをみた。


『今日昼ごはん二人で食べよ?』


「っ!?」


 それを見た瞬間俺は瞬時にそのメールの差出人の方を向く。


 すると俺がこっちを向くと予想していたのか、祖野沢は俺の方をちらりと見て、パチリとウインクをしたのだった。

 





 

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