第14話
「…………」
しかし彼女は俺の顔を見ているままで、喉奥で何かが詰まったかのように口を開けたり閉めたりするだけで、何かを言うことは無かった。
「白戸さん?」
「ぅえぁ……」
彼女の顔が最初どんどん赤くなっていったのだが、それが突然急に青褪め始める。そして遂に俺から目線を逸らした。それ以降、彼女が何かを言うことは無かった。
「……おやすみなさぃ」
「あ、あぁ……」
「おやすみ」
それからしばらくして、白戸さんがいつも寝ている部屋に入った。その表情は暗い。先ほどまでの元気は一体どこへ行ったのだろうかと思うほどだ。
「白戸さん、どこか悪いのか……」
「はぁ……流石の私も怒るよ」
「…………」
「ま、私もあまりに突然すぎた自覚はあるんだけどね。告白の答えは今度でいいよ。今日はもう遅いしね」
それじゃあ風呂貰うよ~、と一人立ち上がった彼女を、俺は黙ってみることしかできなかった。一旦自分の中で整理したかったからだ。
祖野沢が俺のことを好いている。それも、友人としてでなく、一人の異性として。その事実は俺の中で大きなショックとして全身に襲い掛かっていた。
「はぁ……」
それに、白戸さんは何で言い淀んだんだろう。
あの感じ、今までの白戸さんではなかった気がする。というか……彼女でもあんな表情をするんだなって、少し驚いた。
彼女は俺の前ではいつも明るかったから……今思うとそれはおかしいことだと気づくことができた。
誰だっていつも元気なわけないのだ。きっと彼女にも悩み事があったはずだ。
それに気づけなかった俺も俺だ。
「一度白戸さんと話すべきか……」
と、そう考えた時だった。
『そろそろ呼び方朱火って呼び捨てにしてくれないの?』
いつの日かに言われた言葉を思い出した。
……どうしてだろう。
「まぁいいか。取り合えず明日話し合おう」
俺は風呂に入っている祖野沢にバスタオルを置いておくと告げてから一先ず俺の部屋に戻った。
そして自分のベッドに倒れこんだ。
「あ」
そこでふと思い出す。
「祖野沢の布団用意するの忘れてた」
俺は重い体を無理矢理動かして、襖から布団と毛布を取り出す。
心なしか、それがいつもより重く感じたのはなんでだろうか。
「ふぅ……」
「あ、ありがと~」
と、丁度風呂から上がった祖野沢がリビングにやってきた。
その姿はいつもよりも艶めかしく、さっきの告白で吹っ切れたのか知らないが、俺を誘惑する気満々だった。
その証拠に、どこか面白そうに笑っている。
「白戸さんには悪いんだけどね~。恋愛って臆した方が負けだから。まぁいっか。それよりも─────」
すると彼女はそろりと、俺に近づいてきた。
「ねぇ……これからどうするの?」
「どうする、とは」
「白戸さんだよ。このまま放っておいていいの?」
「いや、明日にでも話すつもりだ。それよりもう俺は寝る」
「ちょっと飲もうよ」
「……え。なんかそんな気分じゃないんだけど」
泥酔いはまだ全然残ってるけど、それはまた明日にでも飲めるし。
どちらかというと今は家にない睡眠導入剤を飲みたい気分だ。
「明日は普通に学校だし、お前確か朝早かったんじゃ?」
「あ、そうだった。それじゃあ寝るから、ほらさっさと自分の部屋に行って。あ、なんなら一緒に寝る?」
「寝ない。じゃあな。おやすみ」
「ぶぅ。つれないんだから」
俺は最後の彼女の言葉を無視して部屋に入った。
その時の俺は自分でもどんな気持ちだったのか、ついぞ分かることは無かった。
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ほしがほしいです。
何でもありません。
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