第3話
(side 白戸朱火)
唐突だが、私は遠峰勢登が大好きだ。
もう愛していると言っても過言ではない。
その気持ちを自覚し始めたのはつい最近、と言う訳ではない。もしそうだったのなら私はどれほど惚れやすい性格をしているのだろうか。我ながら引いてしまう。が、そんなことは無いので安心してほしい。
私と彼との出会いはかれこれ2年前に遡るのだが、私はまだ中学校に通っていた時だった。その出会いも偶然だった。
私がいつも使っているコンビニで珍しく会計で困っていた時に、偶々私の後ろにいた彼に助けてもらったのだ。その後にお礼を言いに行って、それから話が弾み、気付けば“また今度”なんていう仲になっていたのだ。
それから頻繁に私と彼はあのコンビニで会うようになり、顔を合わせればいつも話す間柄となった。
それで話を重ねていって分かったことなのだが、どうやら彼は今年この近くの大学に通い始めるらしく、実家からコンビニの近くにあるアパートに引っ越したのだとか。それを聞いた私は失礼だが、意外と年上だったんだとびっくりしてしまった。
だって彼の見た目は悪く言うつもりはないのだけれど、まるで高校生みたいだったのだ。まぁ、高校を卒業したてだったのもあったのだろうが、少なくとも大学生には見えなかった。
それをつい彼の前でポロっと口にしてしまった際には
「まぁ、そうよく言われるよ。でもここから成長するから問題なし」
と、自称170㎝はそう背伸びをして私にアピールした。その子供っぽい姿に私は思わず笑ってしまったのを覚えている。
そして中学3年の最後の学校生活が終わりを迎えようとしていた時だった。
その頃の私は受験が終わったお陰なのか知らないが、いろんなものに興味を持ち始め、特におしゃれなどに興味を抱き始めてから少ない金をやりくりしながらそれを楽しんでいた。
しかしそれがよくなかったのだろう。いや、そうだったとしても私はおしゃれを止めなかっただろうが。
『俺と付き合ってくれ』
そう言われたのは中学校の卒業式が終わった直後だった。
告白してきた男子は私は全くと言っていい程知らない人で、多分一度も話したことがなかったはずだ。
なのに、そんな私に告白してきた。
私は一瞬で見た目で決めつけたのだと判断した。
『ごめんなさい』
この返事は当たり前だった。
自信があったのだろう、その彼の表情は今でも少しだけ覚えている。驚愕に染まった、あの顔を。
後から友人に聞いたのだが、どうやら私に告白してきた彼は中学校のとある部活のエースで、つい最近付き合っていた彼女を別れたばかりだったらしい。まぁ、今となってはどうでもいい話なのだが。
正直、その頃の私は付き合うだとか、恋だとか、好きだとか、そう言ったものに疎かった。だって経験したことが無かったから。だからこんな感じでぶっきらぼうな返事になってしまったのだろう。
私がそうやって断ると、彼は一言文句を私に言ってから、逃げるようにこの場を離れた。その背中は小さく、そして幼く見えて私は思わず失笑してしまった。
そして残ったのは何も感じることなく、ただつまらなそうに溜息を吐いている一人の元女子中学生だけだった。
私は帰り道、その日にあった出来事、特に最後にあった告白について考えていた。好きとは、恋とは、付き合うとは、いったい何なのだろうか。
「あ」
「おう、白戸さんか。久しぶりだな。受験終わったのか」
と、一人うんうんと唸っていると、見知った顔に会った。勢登さんだ。
私は受験で最近コンビニに行けてなかったから、こうして会うのは一か月ぶりくらいな気がする。
「うん。今日卒業式だったんだよ」
「そうだったのか。卒業おめでとう」
「ありがとう」
私が卒業したことを言うと、彼は一瞬驚いた表情をした後に祝福の言葉をくれた。その言葉に私は思わず笑みがこぼれた。
さっきの薄っぺらい告白と違って、その言葉には私を心の底から祝福しているという感情がわかったからだ。
そして帰り道、私はさっきから気になっていたことを彼に相談してみた。
「ねぇ、遠峰さん」
「ん?なんだ?」
「好きって、なんなの?」
「……と言うと?」
「私ね、今日初めて告白されたの」
「……あー、卒業式だもんな。そう言ったこともあるか」
「……私、人のこと好きになったことがないの。恋をしたことがないの。だから、誰かと付き合うとか全く想像できなくて。だから今日、告白されたけど断っちゃった。別に私は彼のことなんて微塵も知らなかったからそれでよかったんだけど、でも、同時にこう思っちゃったの。誰かを好きになったことのない私が果たして誰かと付き合ってもいいのかな……って」
誰かに恋をしたことがない私にはそんな資格がないんじゃないか。きっと誰かと付き合うことになっても、私の態度や言葉一つでその相手を不快にさせるのではないだろうか。と、そんなことを思ってしまった。
誰かのことを好きになる。
それは普通の人なら簡単にできるものだが、私には到底できないものだった。それは果たして早くに親を亡くしたからだろうか。それとも、今の暮らしを維持したいがために不穏分子を少しでもなくしたいからだろうか。
そんな考えが頭によぎっては消えていく。
いろんな考えが私の頭の中をどんどん不明瞭にして、そしてついに真っ暗な闇へといざない始めた。
そんな私の話を黙って聞いていた、私よりも人生経験のある先輩は一息おいてから話し始めた。
「俺には白戸さんが今どう思ったりしているのかよく分からないし、ありきたりなアドバイスしかできないのだけれど……白戸さん」
「…………」
「誰かと付き合うことを正確に、緻密に、念入りに想像できる人なんてまずこの世にはいない。みんな何となくで想像してるんだ。だから、俺とかみたいに全く想像できない人だっている。だから白戸さんが今そう思っていることは何も問題じゃないし、それにこれから高校生になるんだろ?だったらそこで少しずつ学んでいけばいいじゃないか」
「っ!」
「なんでも一人で抱え込みすぎてる感じがするんだよな。最初に話したあの日から思ってたことだけど、白戸さんはもう少し人に頼ったりしてみた方がいいんじゃないか。まぁ無責任なことはあんまり言えないから、今度平風さんに話は聞いてみるけど」
「遠峰さん……」
「もっと余裕を持てれば、きっとその感情だけじゃなく、いろんなことだって気付けるはずだ。ま、まだ大学生の俺に言える資格なんてそれほどないんだけど。だからさ、そう重くとらえないで、気にすんな」
そう言って遠峰さんは私の頭を優しく撫でた。
その掌の温かさに、私の心になんだかふわふわとした、そんな不思議な感覚が芽生え始めていたのだが、その頃の私はそれに気づくことなんてなかった。
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