第4話

「んじゃ、行くか」


「そうだな」


 今日はもうこれ以上授業がないので、四限が終わった後俺と雅人は部室へと足を運んだ。


 第一校舎を抜け出し、6月後半で湿気が多く動くことが億劫になる程暑い中外を歩き、学生棟と呼ばれる建物までやってきた後、学生棟の一階にあるコンビニに行きたい俺は一旦雅人と別れた。

 

「エナドリエナドリ……」


 エナドリが置かれているところへと向かってお気に入りのやつを一本取り、キャッシュレスの精算機ですぐに精算を終わらせる。スマホで残高をチラッと確認すると……今度の仕送りっていつだっけ。


 俺はスマホの画面に出ているものを見なかったことにして部室へと向かった。

 そしてエスカレーターに乗って適当にゲームの通知を確認する。あ、期間限定ガチャやってんじゃん。


「お疲れ様でーす」


「お疲れー」


 部室にはさっき別れたばっかの雅人ともう一人いた。祖野沢だ。


「あれ、祖野沢」


「やっぱ来たんだね。まぁ、私もさっき来たばっかなんだけど」


「そうか」



 祖野沢侑那そのざわゆきな。俺と同じ学科であり、そして同じサークルにも所属しているという、大学一年生からの腐れ縁である。

 染めたと一瞬で見抜ける長い金髪に、少しだけ鋭い目。見る角度によってはイケメンに見えてしまうほど整った顔。そして他人の─────特に男の視線を一目で奪うことができるほどの圧倒的凶悪的ボディ。

 身長は170センチほどを記録しており、まるでモデルかと勘違いしそうなほど完成しきった体。噂では本気で恋をしている女子もいるのだとか。

 

 そんな一目で誰もを魅了する彼女だが、性格は活発そのもの。

 俺と同じサークル─────ゲームサークル以外にも、女子サッカーサークル、女子テニスサークルの二つに所属しており、そのどちらでもレギュラー入りしているらしい。

 正直何故このゲームサークルに入っているのか一ミリも理解できないのだが、とにかく、そんな完璧でありつつもどこか変わっている。それが彼女なのだ。



 俺はいつものところにリュックを置いてからコントローラーを手に取った。

 すると雅人はやっていた一人プレイ専用ゲームを一旦辞めてから別のゲームの準備を始めた。


「今日は?」


「スラビラ」


 スラッシュビームラヴァーズ。略してスラビラ。登場するキャラは剣などを扱う近接キャラかビームなど扱う遠距離キャラの二種類で、その攻撃が多種多様で結構奥深いゲームである。


 ルールは、空中に浮遊しているフィールド内で落とされるか、画面外に吹き飛ばされるかされると敗北となってしまう。なので、そうならないためにコンボなどを決めてなんとかフィールド内に居残ろうと必死になって戦うのが基本となるのだ。


「あ、私もやるー」


「オッケー。ほい」


 複数のコントローラーが置かれている場所に一番近かった雅人がそこからコントローラーを取って祖野沢に渡した。


「コントローラーの登録は?」


「もうしてるから問題なし」


 どうやら渡した際に既に登録を済ませていたようで、比較的早くスラビラを始めることができた。


「ふんぬ」


「なっ!?」


 そして開始早々俺は近くにいた祖野沢のキャラを外に放り出してフィールドの外の真下に叩き落とした。

 このゲームは残機を削り切られるまで敗北とはならない。が、残機があれば有利なのは事実。

 故に、


「…………せぇとぉ?」


「ん?」


「%$#%$#@@##$%%%++ァァァァァァアアアアア!!!!!!」


 ゆっくりと俯いていた顔を上げ、女子が到底あげてはならないであろう声にならない叫びをあげた。怒り散らかす彼女を見れるのはこのサークルのみだ。他では見られない、珍獣と化した祖野沢の珍しい光景である。

 が、俺はそれに臆することなく、


「ふんぬ」


「「なっ!?」」


 今度は2人まとめて吹き飛ばした。そして珍獣祖野沢が操作していたキャラの残機は0、雅人のキャラの残機は1となった。


「ァァァァァァァァァァァァ……………」


 瞬間、珍獣祖野沢は倒れ、呻き声をあげ始めた。多種多様な声をあげる彼女の姿はこのサークルの俺たちしか見れない光景である。よほど悔しいのだろう、目にはキラリと涙が見えた気がした。が、そんなのこのゲームをしていると毎度見ているので俺は気にすることなく雅人の残機を削った。


「……強い、強すぎる……なんなんだこの強さは」


「半羽、手を組もう」


「おう」


「おいそこ結束すんな。反則だぞ。俺が不利になるじゃねえか」


「お前が文句を言う資格などないぞッ!!遠峰ぇ!!」


「そうだそうだ!!半羽の言う通りだぁ!!」


「えぇ……」


 そして一時間で俺は何度も手を組んだ彼らをボコボコにしたとさ。お陰で今度お詫びとしてジュースを一本ずつ奢る羽目になったのだが。理不尽ここに極まれりである。





「あ。そう言えば」


 と、俺の銀行口座に入っていた貯金が少なくなってしまったことに悲しんでいると、不意に祖野沢が俺らに話しかけてきた。


「旅行、いつ行く?」


「ああ、そう言えば」


 雅人がポンと手を叩いた。どうやら言われるまで忘れていたのだろう。ちなみに俺もすっかり忘れていた。だってしょうがないじゃないか。あんま興味ないんだし。


「え、行くつもりなかったの?」


 そんな俺の様子を敏感に察知したのか、祖野沢がそんなことを聞いてきた。

 俺は気まずそうに祖野沢に向いていた視線を逸らすと、ふぅんと少しだけ寂しそうな表情をしてから聞いてきた。


「んでどうする?私は別にどっちかと二人きりでもいいけど」


「なんでそれで俺の方を見てくるんだよ……」


 と、祖野沢が俺の方を向いてきたので適当に手を振っておいた。


「俺は雅人が行かない限り行かねぇぞ。めんどいし」


「じゃあ半羽、行く?三人で」


「いいぜ」


「よっしゃ」


 ということで、急遽、と言う訳でもないのだが、近日旅行に行くことが確定した瞬間であった。




「ンで祖野沢、いつ行くんだ?」


「明日」


「おけ」



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