第5話

 と言う訳で、やってきました群馬の草津温泉~。どんどんパフパフ。


 まぁ日帰り旅行なのでそれほど遠出はできない、かといって近場の東京とか千葉とかだと味気ない。


『だったら群馬の草津温泉とかは?』


 という雅人の一言で行き先が決まったのだ。昨日。


 そしてどうやって行こうかという話になり、その場で行き先を決めた責任を持てと言う半ば無理矢理な理由で、雅人が運転する車で行こうということになった。


 そうやって決めたもんだから、一体どうなるのか不安を抱えたまま次の日を迎え、俺たちは大学前に集合して、雅人が運転する車に乗り込んだのだ。


 そんな雅人はずっと運転していたせいか、ぐったりとしている。


「おつかれー」


「あ、半羽はそこで寝てていいよ」


「なんか一番の功労者にそんな扱いは無くね……?」


 それはごもっともである。が、そこは俺と祖野沢だ。素直にあきらめて欲しい。

 しかしこのままだと俺と祖野沢の二人きりで行動することになってしまう。それだけは避けたかった。


「まぁ、雅人が回復するまで待つか」


「……まあそうだね」


 何やら不服そうな祖野沢は置いておいて、ひとまず何か食べようということで、適当に近くで温泉まんじゅうを買って三人で食べ始めた。


「うまうま」


 やはりというべきか、このロケーションだからというのもあるのだろうが、それを差し引いてもこの温泉まんじゅうは美味しかった。

 となりで祖野沢が満足げに食べている姿を見て彼女も俺と同じように美味しいと思っているんだなと分かり、何故か安心した。

 

 一方の雅人はというと……。


「…………」


 一心不乱に温泉まんじゅうを食べていた。俺たちはなるべくそれに触れないように、そっと目線をそらし、外の風景を眺めるのに徹したのだった。




「おお、硫黄臭い」


「腐卵臭だ」


「……もうちょっとマシな感想無かったの……?」


 祖野沢が呆れたようにそう言うが、果たしてそれ以外に何か言うことがあるのだろうか。俺はないと思う。



 所変わって。


 今俺たちは草津温泉をテレビなどで紹介されると必ず出るであろう、湯畑に来ていた。

 その光景は圧巻の一言なのだが、いかんせん臭い。まぁ湯気がそこら中に出ているのだから仕方がないとはいえ、鼻が敏感な俺には少々辛いところであった。


 その近くで売っていた温泉卵は物凄く美味しかったので良しとしよう。そしてまた雅人が一心不乱に食べていたのだが……もう色々諦めた。そういうもんだと割り切ったのだ。


「ふぅ……食った食った」


「……よかったな」


「おう。来てよかったぜ、草津温泉。最高だなここ」


「それ飯が、だろ」


 今のこいつの頭の中はきっと飯のことで埋まっているはずだ。

 こいつは細身のわりに結構食べる。それはもう……ドン引きするくらい。それでいて一向に太る気配が無いのだから、祖野沢に目の敵にされている。


 哀れ。



 閑話休題。


 

 その後俺たちは草津温泉周辺を散策し、道中有名な湯もみなども見学したりした。それなりにというか、弾丸で来た割には結構よかったのではないだろうか。


 そして最後に温泉に入ってから雅人が運転する車に乗り込んで帰ったのだった。


 その帰りの車では後ろに座っていた祖野沢が寝てしまい、助手席に座っていた俺がそれに気づいたのは大学前に着いてからだった。


「おつかれー」


「そんじゃなー」


「また明日なー」


 今日は奇跡的に三人とも授業がなかったので平日で行けたが、もしこれが休日だったらと思うと恐ろしくて仕方がない。だってこれでも外国からの旅行客などでまぁまぁ混んでいたのだから。


 俺たちは確かな満足感を抱えながら、それぞれの帰路に着いたのだった。





 草津温泉弾丸旅行から数日後。


 次の日以降からまた普通に授業があったせいであの時の興奮は一瞬で冷めきってしまい、余韻すら既に感じることのできなくなった。


 あの時は本当に楽しかったのになんだよあの教授。急にレポート課題とか出してくんなし。クソが。


 なんて教授に言ったら……俺は一体どうなってしまうのだろうか。きっと教授に嫌われること間違いなし。というかもう既に嫌われてるかも。課題とかあんま出してない不良生徒だからな、俺。自分で言ってなんか悲しくなってきた。


 そんな風に、いつものように大学の授業を受けてサークルで適当にゲームをしてから帰ってきた。


「ただいまぁ……」


「あ、おかえりなさい……!」


 俺が玄関のドアを開けると、その音に気付いたのか、エプロンを着た白戸さんがトコトコと小走りで俺の元までやってきた。その姿はまるで小動物のようでなんだかほっこりしたのは内緒だ。


「今日は遅かったわね……?」


「ん?まぁな。サークル行ってたんだよ」


「そうだったのね。あ、もうすぐご飯できるわよ?」


「わかった」


 1ヶ月経つとこうも変わるんだなぁ……1ヶ月前は俺が帰ってきてもこうしてやってきて……うん、全く変わってなかったわ。どころか、最近はよく抱きついてこようとしてくるので更に悪化した気がするのだが。


 そんなことを思いながら買ってきた食材などが入った買い物袋をキッチンに置いてから手を洗うために洗面所へと向かって手を洗う。

 そしてキッチンに戻ってから買ってきた食材を冷蔵庫に詰めていく。そこには追加で買ってきたエナドリもあった。それを見た白戸さんに小言を言われたのは仕方がないだろう。ここは謹んでその小言を受けるしかない。


 そうこうしている内に夜ごはんが出来上がったようだ。彼女はテーブルに料理を並べていく。


 俺はそれを確認すると、テーブルへと向かって俺の箸が置かれているところに座った。


 そして白戸さんも座ったのを確認してから、


「「いただきます」」


 2人して食べ始めた。


「あ、勢登さん、さっき宅配業者からダンボールが届いたんだけど」


 そう言って彼女が指差したところには、確かにダンボールが。


「なんだあれ。後で開けるわ。サンキュー白戸さん」


「ええ。あ、それと、そろそろ呼び方朱火って呼び捨てにしてくれないの?」


「えっ……」

 

 


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