第6話

「……それはまた今度話し合おう?」


「それ、先週も言ってたよね?」


 ……そうだっけ。僕、覚えてないや。


「でもさ、一応俺たちが一緒に暮らしているのは秘密というか、あんまり人に知られてはいけないものだからな?そこんとこ分かってて言ってんのか?」


「それはもちろんだけど、名前呼びにした方が同棲してるって勘違いしてくれるかもしれないでしょ?」


「それが良くないんだよ……。高校生と大学生が同棲してるってなると、最悪俺捕まるかも……?」


「大丈夫よ。同意があるんだから」


「でも近所から変な目で見られるかも……?」


「……心配しすぎよ。それに……」


「それに?」


「……何でもないわ。勢登さんは気にしなくてもいいことよ」


 その何か含まれていそうな言葉がとても恐ろしく聞こえた。しかしなるべくそれについて深く考えないように、食べるペースを早める。

 そんな俺の様子を不思議に思ったのだろう、彼女は可愛らしく首をコテンと傾けるのだった。





 夜ご飯を食べ終わった俺たちは食器を食洗機に入れる。そしてさっき届いたという段ボールを開けようと言うことになった。


「何だこれ。差出人は……?」


 俺が差出人のところを見ていると、横から白戸さんが顔を覗かせてきた。


「えっと……祖野沢、侑那……っ!」


 その名が白戸さんの口から発せられた時にはもう遅かった。俺の体は突然来た横からの衝撃に耐えきれず、倒れ込んでしまう。その衝撃で思わず目を瞑ってしまったが、そこから立ちあがろうと目を開けるとそこには白戸さんの整った顔が。


「────誰?」


「えっと……? 白戸さん……?」


「誰? 祖野沢侑那って……誰?」


「それはですね……何と言いますか……」


 ただの大学の同級生だと言えばいいだけなのに、何でこうも罪悪感というか、そんな感じの後ろめたい気持ちが芽生えるのだろうか。それは祖野沢が女だからなのだろうか。


 先程から俺の肌にビシビシくる圧が凄い。まるでドラマでよく見る浮気がバレた時みたいな。俺浮気とかしてないんだけど。というかそもそも俺は誰とも付き合ってないんだけど。


 しかし、そんな俺を他所に彼女は続ける。


「浮気したんだね?」


「……俺たち付き合ってない──────」


「浮気、したんだね?」


「…………」


 してないのに、まるでしているかのような、そんな錯覚に陥ってしまう。


「ちょっ!? ちょっと待てって! 一旦落ち着こう!? な!?」


「……え?」


「いやその何言ってるのこの人と言いたげな顔やめな?」


「何言ってるの? 私冷静だよ? で、いつ浮気したの?」


「一旦その考えから離れろっ!!」


 それからしばらくの間その誤解(?)を解くためだけに30分かかってしまった。彼女には祖野沢についてどんなやつかをしっかり話し、あくまで俺たちの関係は友人であって別に浮気をしている訳ではないと何故か説明しなくてはいけなかった。


「なるほどね! つまり私にとっては要注意人物というわけね!」


「何がなるほどなんだっ!!」


「浮気はしちゃダメなんだからね!!」


「だから浮気してないっての!! そもそも俺たち付き合ってないだろうがっ!!」


「……いいじゃない、それくらい」


 とりあえず彼女のことは一旦無視して、俺は祖野沢から送られたものを開ける。あいつこんなの送るなんて今日一言も言ってなかったんだが……。


「…………」


 俺は中に入っていたものを手に取って、外に出した。


「……浮気」


「…………」


 中に入っていたものは、前に俺と雅人と祖野沢の3人で群馬に出かけた時に撮った、俺と祖野沢のツーショットを含めたその場で撮った様々な写真と行った場所で買ったグッズ類だった。そう言えば何故かその場で渡せばいいものを今度写真と一緒に送るねなんて言ってたな。

 そして、その中で最も問題のツーショット写真というのが祖野沢の手によって加工されており、あたかも付き合ってるかのような感じになっていた。


 これは……白戸さんが怒るわけだ。というか、今怒ってるし。


 この後俺はまた彼女を宥めたのだが……それはさっきよりも時間がかかったとだけ言っておく。


 辛かった。






 次の日、俺が講義が一個もないということで白戸さんが、


『だったら出かけましょう。せっかくの機会ですから。決して祖野沢さんを意識しているわけではないんですからね?』


 と、俺に提案してくれたのだ。ハイライトが失われた目で。

 彼女が敬語で話すときというのは大抵怒っている時なので、俺は素直に従うしかないのだ。これは一か月一緒に暮らしてきた中で培われた経験からきているものである。


 そう言う訳で、今俺と白戸さんは住んでいるアパートから歩いて10分で行けるデパートまで来ていた。

 特に何か特定のものを買いに来た訳でもないのだが、まぁ、言ってしまえばウィンドウショッピングをしに来たのだ。その場で気に入ったら買えばいいからな。


「あ、勢登さんここ行こ!」


「ん? あ、あー……」


 彼女が指差したところは今若者に人気の洋服屋だった。ちなみに俺は入ったことがない。値段もリーズナブルかつデザインもいいとのことだ。前CMが流れていた時に白戸さんが話していたのを思い出したのだ。


「ほら早くっ!!」


「お、おう……」


 俺は白戸さんに腕を引っ張られ、半ば無理矢理入らされた。

 

 そこは俺には遠い世界だった。中に飾られている服はどれも俺が一生着ないであろうものばかりで、俺の人生とは無縁のものだと思っていたのだ。

 

「うわぁ」


 俺の口から漏れたその言葉は俺の心を如実に表していた。


 

 帰りたい。



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