第7話

「勢登さんっ!! 次はこっち!!」


「お、おぅ……」


 俺は白戸さんに腕を引っ張られて次の店に連れ込まれる。これでいくつ目だろう。もう5軒回ったあたりで数えるのを止めた俺は、きっと今死んだような目になっているに違いない。


 まだ祖野沢に連れられた経験があったからまだ何とかなっているものの、もう少し時間がかかるとしたら……想像したくない。


 まぁでも、楽しそうな彼女を見ていると、断ろうにも断れない。

 しかし少しだけ休憩したいという俺の中の気持ちが勝ったのか、咄嗟に彼女にこう言っていた。


「勢登さん、ここ行こう!」


「え、いや少し休憩─────」


「ん?」


 しかし、俺の言葉は長くは続かなかった。彼女の、その大きく開かれた目とそれによって放たれた威圧によって無理矢理俺の口を閉ざしたからだ。

 これはまずい。


「勢登さん、今日はあの祖野沢とか言う訳の分からない悪女からの贈り物の埋め合わせで来ているんだよ? 分かってる?」


「……だから毎度言ってるけど、彼女は俺の大学の同期であって、決して男女の関係ではないんだ」


「だとしてもだよ。……私が必死でアピールしてるのに一向に襲ってこないんだもん」


「……は?」


 今聞き捨てならないことを聞いた気がするのだが……?え、白戸さんってそんなキャラだっけ。

 そもそも彼女には好きな人がいたはずだし……。


「ともかくっ! 今日はとことん私に付き合ってもらいますからねっ!お金を出してもらうのは申し訳ないのだけど……」


「まぁそれくらいなら別にいいよ」


 優しい彼女はやはり最後まで強気な姿勢は続かなかったようだ。申し訳なさげな顔をしている。


 「まぁ、今日のこれはいつも家事とかいろいろやってくれているお礼をしているってことで、気にしなくてもいいよ」


「っ! うんっ!」


 俺がそう言うと、彼女の顔に笑顔が戻った。よかった。

 そして俺たちは彼女が先行する形で、彼女が行きたい場所へと向かい始めた。


「……む?」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


 一瞬見慣れた顔が見えたような気がしたのだが……気のせいだったようだ。それがあった場所をもう一度見ても何もなかったからだ。


 そうしていると不意に彼女が立ち止まった。どうやら着いたようで、彼女の表情からワクワクしているのが分かる。それほど次行く場所に行きたかったようだ。


「それじゃあ次、ここ行こ!」


「お─────嫌だ」


 しかし、どれほど行きたいと思っていても、俺のことは気にするなとは言ったけど、下着屋に入れさせようとするのは良くないと思う。


 彼女が入ろうとしている店は、男子禁制と言わんばかりに見事に女性物の下着しかなく入っている客も女子しかおらず。お、あれは誰かに連れられて入った男子だろうか、とても居心地悪そうにしているやつがいた。


 その男子が不意に俺の方を向いてきた。その目は“おお、我が同士っ!!”とでも言わんばかりに、俺に助けを求めているようだった。


 だが俺は、その縋ってきた手を跳ねのけようと動き始めた。


「白戸さん、俺外で待ってる─────」





「来るんですよ?」





「……はい」


 俺は最大の障壁に勝てなかった。




 と言う訳で、俺は今この瞬間……女性の下着屋に入った。


 これだけ見たらもう変態の烙印を押されること間違いなしなのだが、ちゃんと横には白戸さんがいるので問題ないし、付け加えるのなら、俺の腕はがっちり白戸さんに掴まれている。

 そして、中に入った時にチラッと視界に入ったのだが、今の時代の女子の下着には男が履くようなトランクスみたいなのがあるらしい。全く分からないし分かりたくもない情報なのだが。

 

「なぁ、俺ここに入る意味あるか?」


「私が着るのを見てもらうっていう意味あるじゃん」


「…………」


 俺はその言葉に一瞬だけ反応してしまった。彼女の言葉はまるで俺に自分の下着姿を見せようとしている感じだったからだ。

 流石にそれは嘘のはずだ。


「ふふん」


「…………」


 そうしていると彼女はいくつかのものを手に取ってから、また俺の腕を引っ張り、今度は試着室へと向かって行った。

 

「ちょっとそこで待ってて」


「……は?」


 そう彼女は言い残してから試着室の中に入っていった。

 その瞬間、俺の身はこの下着屋で無防備となった。


 今まで俺には彼女白戸さんという免罪符というか、俺の心の防壁というか、とにかくそう言ったものがあったのだが、それがこの一瞬で消え去ってしまった。


 異常事態。


 今の俺は変質者そのものに近い存在と化してしまった。

 試着室の前にいるだなんて……変態以外の何者でもないだろう。考えすぎだろうか。


「……ねえねえ」


「…………」


 と、その時だった。頭の中で色々考えていると、後ろから声がした。どうやら着替え終わったようだ。


「んで、それを買うのか?」


 俺は彼女の方を向かずに聞いてみる。ここで振り向くのは自分は変態ですと主張しているようだと思ったからだ。

 そんな俺の心情を察したのか、彼女はこんなことを言ってきた。


「似合ってるか分かんないので、ちょっと見てみてよ」


「ちょっ!? お前っ!?」


 そう言われて俺の顔は無理矢理後ろを向かせられてしまった。

 そして俺の視界に入ってきたのは大事なところ以外隠せていない、そんな煽情的な彼女の姿だった。


 出るところは出て引き締まっているところはしっかりと引き締まっている。そんな、モデル同然のその魅惑的な肢体に加えて、それを更に引き立てるかのような白を基調としたそれに、俺の喉は自然とゴクリと鳴らしてしまった。


「お、お前っ……!?」


 そんな俺の慌てた様子に満足したのだろう、彼女は今日一番の嬉しそうな表情を見せた。




「どう? この


「─────は?」




 しかし、俺の慌てはその言葉ですべて吹き飛んでしまった。


「だから! どうなのっ!? このはっ!」


「……水着? え、だってここって」


「え、水着専門店だけど?」


「…………」



 あ……っ、ふーーん。



 恥ずかしっ。



─────────────────────────────────────


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 そして次回の投稿なんですが、ストックが切れかけているので明日の投稿はお休みさせていただきます……。


 すんません。

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