第2話
「勢登さーん?もう起きないと学校に遅刻するよ?今日って一限から講義入ってるんじゃなかったのー?」
「……んぇ。まだ……」
一枚の壁を挟んでいるせいか、彼女の声が小さく聞こえる。俺が淡い意識そのままに適当に返事をすると、突然“バタン”と俺の寝ている部屋のドアが開かれる音がした。
一体なんだと確認しようとしたその時、俺の体が突然何かによって拘束された。
「んもぅ……だったらぁ……このまま─────」
「っ!?分かった、分かったから!?ちょっ!?」
危機感を感じて無理矢理意識を覚醒させると目の前には目を瞑って自分の唇を俺のとある場所へと迫らせてくる少女─────
俺は何とかして彼女の拘束を抜け出してから手で自分の唇を塞ぐと、彼女は残露骨に念そうな顔をした。
「そろそろいいじゃん……」
「いや、駄目だろ普通に考えて……」
流石に、高校生とこんな朝に一線を越えるなんてことはしたくないし、というか、どんな状況であってもそんなことはしたくない。
もうこの状況ですら危ういものなのに、もしこれ以上危ない橋を渡ろうなどとは……絶対ヤダ。
「ていうか、もう朝ご飯できてるよ。ほら、早く着替えて」
「うーい……」
俺は未だ怠い体を無理矢理動かしてクローゼットから着替えを取り出してから、着替えるために部屋から白戸さんを追い出した。
彼女が出て行ったのを確認してから普段着に着替えて、部屋にあった鏡で軽く確認した後に部屋を出ると、机には立派な朝ごはんが並んでいた。ご飯に味噌汁、そしてサラダに焼き鮭。これら全て彼女が作ったものだ。
「顔洗った?」
「……おう」
「ほら、早く洗ってきて」
「…………」
少しだけの嘘を軽くいなす、さっきとはまるで変わった彼女の様子を見た俺は何とも言えない気持ちを抱えたまま洗面所に向かい、顔を洗ってからリビングに戻った。
そして俺の箸が置かれたところに座ると、その向かい側に白戸さんが座る。
「「いただきます」」
そして二人そろって手を合わせた後に食べ始めた。
何てことない、ありふれた日々─────なんかじゃない。
高校生と大学生が一つ屋根の下で暮らしているというこの状況、全く持って普通じゃない。
でも、こればかりは仕方がないと思う。というか、仕方ないと思うしかない。でないと、この状況を許容できないと思うからだ。
それにあの日、真剣な表情をした平風さんに頼まれたのだから、断ることなんてできるはずがなかった。
衝撃的な平風さんを聞いた次の日、俺は児童保護施設にて、俺と平風さん、そしてこの話の渦中にいる白戸さんの三人で話すことに。
そしてまず最初にどうしてそういう話になったのか、説明してもらった。
「まずね。朱火の今の状況について話そうか」
平風さん曰く、どうやら今彼女に家に迎えたいという、所謂養子の話が来ているのだとか。まぁ、そういった話は双方の合意を持って進められていくものなのだが、そこにどういうわけか、不都合が生じた。
なんでも、この保護施設と里親を仲介しているところがあるのだが、そこで勝手に話を進めていたんだと。それが、終わった後に通知されたもんだから溜まったもんじゃない、と平風さんがガチギレ。
俺はそう言った話について全く知らないのだが、それにしてもこれは酷い話だと思った。こういった話というのはデリケートなもののはずで、今後の彼女の人生に関わるものだ。
閑話休題。
そう言う訳で平風さんはこれに反抗というか、そういった話をこれ以上進めさせないように、それに何より彼女の為に、心苦しいが一旦この施設から出てもらうことになった。
しかしそうなると、彼女をどこに泊まらせるのか、という話になり、そこで出てきた名前が俺だった。ある程度信用出来て、何より一人暮らしという理由かららしい。
なんで一人暮らしが理由に入ったのかよくわからないのだが、取り合えずそういうことらしい。
「でもなんで俺なんですか」
俺は一番疑問に思っていたことを平風さんに問うた。
理由は分かった。でも寄りにもよって何で俺なのか。他にもその条件に当てはまるやつはいっぱいいるだろうに。それも、俺よりも信用できる奴が。
すると帰ってきた答えは意外にも白戸さんからだった。
「その方が私が安心できるからです」
「安心できるから?」
「はい」
それは一体どういう意味だろうか。男の方が安心できない気がするのだが……。
それに、この話し合いが大事だと思っているのかいつもよりも彼女から発せられる言葉の一つ一つが固い気がする。珍しい。
「確かに本来であれば女性の方が望ましいです。が」
彼女は一拍置いてから、何やらいたずらっ子が浮かべるような笑みをその顔に張り付けた。それだけで一体どれほどの男性を堕とせるのだろうか。計り知れない。
「男性であれば……訴えられますよね?」
「こわ」
……恐ろしい。もしかしてこんな
大学三年の、それも留年しかけている男に向かって、これ以上のバッドステータスが、それもとてつもないものが付与されるのはとても良くない。
「……これ考えたのって」
「察しの通り、そうだよ。朱火だよ」
「いえーい」
平風さんが断言し、白戸さんが嬉しそうにピースした。
この時見せた彼女の笑みが、普通なら天使に見えるはずが俺には悪魔の微笑みにしか見えなかった。
「まぁ、とにかくそう言うわけだから……また前みたいに迷惑になってしまうのは百も承知だ。だが─────」
そんな彼女の様子を見て見ぬふりをした平風さんは改めて正面から俺に向き合った。そして、深く頭を下げた。
「どうか、朱火を助けておくれ」
「…………」
「お、お願いします」
流石にこの場面ではふざけられなかったのか、白戸さんも真剣な表情を慌てて作ってから平風さんと同じように頭を下げた。
流石にずっと頭を下げられるとこっちが困るので何とか頭を上げてもらい、俺はいくつか質問した。
「高校はどうするんですか」
「遠峰君の家から通わせる」
「それって……」
「ああ。さっきも言ったが、朱火は今後、できる限り遠峰君の家に住まわせてもらうことになる」
「…………」
「お願いだ」
そんな真剣な顔で頼まれると、俺も断ることができない。それに、白戸さんが今置かれている境遇について、少しだけ同情してしまった。
この時点で俺が断る理由なんて無くなった。
「……いいですよ」
「─────ありがとう」
そして現在。
「はい、あーん」
「……どうしてこうなった」
俺は箸で摘んだ焼き鮭を俺の口に寄せてくる白戸さんを見て、今更ながらこれで良かったのか悩むのだった。
平風さん……なんか心なしか白戸さんが生き生きとしているのは何でですか?
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