女子高生（16）が何故か大学生（21）である俺の家に住み始めたのだが

第9話

「……え？ そ、祖野沢？一体何を言って─────」

「そして白戸朱火……その名前を聞いて確信した。やっぱり……私の要注意人物リストは間違ってなかった……！」

「えっと……？ちょっと待て。色々ツッコミ要素が多いのだが、そ、その要注意人物リストって……？」

「ああ、遠峰は気にしないで何でもないから」

「いやメッチャ気になるんだがっ！？」

　何そのリスト。何か恐ろしいものを感じるのは俺だけだろうか。

「……やはりあなたが祖野沢さんでしたか。最上位危険人物に設定していてよかったです」

「え、あの白戸さん……？その最上位危険人物とはなにか教えていただけると……？」

「勢登さんには関係のないことだからあんまり聞かないで、ね？」

「いや可愛らしく、ね？なんて言われても気になることは気になるから！？」

　祖野沢をなんちゅう物騒なやつに指定してんだよ。見た目だけなら別に危険でもなんでもないだろ。見た目だけなら。中身は別として。

　しかし、さっきから二人は俺を挟んで睨み合っている。これでは帰ろうにも帰れない。どこかしらで決着をつけてほしいのだが……その決着とやらが何か分からない以上、俺が何を言っても火に油を注ぐだけかもしれん。

　ここは黙っていよう。

「では祖野沢さん、勢登さんとどういう関係なのですか？」

「それはもちろんさっきも言ったけど恋人─────」

「俺がいつお前と恋仲にな─────」

「黙れ」

「……え？」

「黙れと言っている」

「……その」

「…………」

「…………はい」

　俺の口は強制的に閉ざされてしまった。こんな威圧的な祖野沢は何度か見たことあるけど、今日のこれはいつものとは比にならないほど圧が強すぎる。

　そして反対側の白戸さんもさっきから難しそうな表情で祖野沢を睨みつけていた。

「あなたと勢登さんが恋仲ではないというのは他でもない勢登さん本人の口によって否定してくれました。ということは、あなたは勢登さんとはただの友人、と言う訳ですね？」

「そういうあなたも遠峰とは知り合いなだけだろう？一緒に住んでいるとはいえ、友人でもないあなたに言われる筋合いなどないのだが？」

「一緒に住んでいるということは、少なくとも友人であること以外なんも関係を持っていないあなたよりは先に進んでいますけどね？それに、もう知り合いなどではなく、私と彼は互いを支え合うパートナーに近い存在となっているんです。部外者が立ち入る隙などないのですよ」

「いやいやいや、そんな大げさな─────」

「勢登さん……？」

「いや、でもさ─────」

「黙れ」

「…………はい」

　俺が口を挟もうとするも、今度は白戸さんが俺の口を無理矢理閉ざしてきた。祖野沢の圧は力で押さえつける感じなのだが、白戸さんの圧はなんというかじわじわと少しずつ力が加えられて行ってる感じ。

　なんで圧に関してこんなに詳しくなってるんだろ、俺。ここ現実だよな……？圧だとか、まるで準ファンタジーのようなもの、ないよな……？普通。

　まぁ、そんなことは今はどうでもいい。

　今はとにかく言い争いが激化している二人と止める必要がある。

「ま、まぁ二人とも落ち着いて」

「誰がそれを言うか」

「ほんとだよ」

「いやでも、もう遅い時間だし……」

「それは私が遠峰の家に泊まればい話じゃん？今はこの話に決着をつけるのが先」

「…………ん？お前今なんつった？」

　今物凄い聞き逃しちゃいけない言葉をこいつは言った気がするのだが……！？

　その証拠に白戸さんも驚いた表情で祖野沢を見ている。まるで非常識だと言わんばかりに。

　そして少しずつその表情を怒りのものにしていった。

「……ええそうですよ。私たちの愛の巣に立ち入ろうなんて、ほかでもない私が許しませんよ」

「別に白戸さんの許可なんていらないよね？だって家主じゃないんだし」

「……ぐぬぬ。勢登さん！！絶対断ってくださいっ！！」

「いやそのつもり─────」

「か弱い女子をここに放り捨てて逃げるとでもいうの？」

「は……？」

　何だか話が妙な方向にずれ始めている感が否めないんだが。それに……こいつがか弱い？いやいやいや。そんな馬鹿な。

「今物凄い失礼なこと考えなかった？」

「そんなことないさ。何も考えてないよ？ただとてもめんどくさいと思っただけで」

「ふぅん。ま、そこら辺はまた後で追及するとしよう」

「まだお前が泊まると決まったわけではないからな」

　俺は腕時計を見て、今の時間を確認する。すると、もう既に２１時を回るところだった。もうそろそろ帰らないと、明日に響いてしまう。明日普通に学校ある─────あ。

「そうじゃん。明日も普通に学校あるやんけ」

「でも私明日授業ないよ？」

「え、そうだっけ」

「そうだよ？授業あったら泊まるなんて言わないって」

　確かに教科書を持って友達の家に普通泊まりに行かないもんな。その普通を知らないから何とも言えないのだが。

　しかし、そう考えている途中で俺はあることに気が付いた。

「でも祖野沢、お前の家ってここから近かったんじゃ……」

「そうだね。走って２０分くらいだね」

「……俺は一度お前と近いの定義について話し合いたいよ」

　そうだった。こいつ、徒歩一時間以内ならどこでも近いとかいうやつだった。

　なまじ運動神経がいいせいか、徒歩一時間なら走ればよくね？の発想に至ってしまう彼女は距離感覚が結構バグっているのだ。

　しかもそれを自覚したうえで自分の都合でころころ変えてくるんだもん頭おかしいだろ。

　ちなみに彼女の足の速さと持久力は普通に大学の陸上での大会が狙えるところにあると言えば伝わるだろうか。

　伝わらない？１００ｍ１１秒台だよ。それにマラソン選手並みの体力もあるんだから異常ここに極まれりだろ。おかしいんじゃねぇの？

「だから、今から帰るのは怖いだろう？だから遠峰の家に泊まらせてもらいたいんだよ。女性物の服だってあるだろ？」

「……ちっ」

　こら白戸さん、舌打ちしちゃいけません。高校生がそんな凶悪な顔をしてもいけません。ほら直して。

「だから、ね？いいでしょ？じゃないと……バラすよ？」

「…………」

　一体祖野沢はどこでその情報を知ったのか是非教えてほしいのだが、きっと教えてくれないだろう。

　俺は最後のその言葉に折れてしまった。それに気づいたのだろう、白戸さんは露骨に嫌そうな顔をした。

　そんな白戸さんを見た祖野沢は満足げな顔をしていた。

　どこまでも対照的な二人であった。

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